石綿救済法改正への3つの緊急要求
更新日:2023年3月27日
公開日:2022年2月7日
私たちは、「命の救済」の実現と「すき間」と「格差」のない
石綿健康被害救済法の抜本的な見直しを求めています。
2016年12月に中央環境審議会環境保健部会石綿健康被害救済小委員会が取りまとめた、「石綿健康被害救済制度の施行状況及び今後の方向性について」では、同制度の5年以内の見直しが必要であるとされています。 2021年12月には、この報告書が取りまとめられてから5年が経過しました。治療環境の変化や新たな司法判断が出されるなど、制度をとりまく状況は大きく変化しています。2022年6月6日からは小委員会で新たな議論が開始されています。
緊急要求1 「格差」のない療養手当と「すき間」をなくす認定基準の見直し
制度設計時から、石綿健康被害をとりまく社会状況は大きく変化しています。
例えば、2021年5月17日に最高裁判所が建設労働者らに対する国の責任を認定しています。
国が責任のあり方について改めて検討し、石綿健康被害救済制度を「救済」から「補償」に変える抜本的な見直しに着手する必要があります。それが直ちに困難であるとしても、少なくとも 石綿健康被害救済法1条を改正し、「健康で文化的な生活の確 保」を明記した上で、具体的には生存権を確保するために生活 保護費(単身者)を参考にして療養手当の倍増を図るか、後述するような新たな給付を設けることが考えられます。その上で、消費税や物価変動に対応するため、給付額の見直しのための検討の場を毎年設けることも必要です。
石綿肺がんは中皮腫の少なくとも2倍以上の被害者がいるとされていますが、申請・認定者数が10年以上伸び悩んでいます。最大の原因は、石綿肺やびまん性胸膜肥厚にある「ばく露歴」が判定に用いられていないことにあります。
石綿肺についても、労災では認定される続発性気管支炎などの「合併症」が認定のための判定基準から外されています。建設業界における一人親方などを救済するため、労災と同様の石綿ばく露基準を採用する必要があります。
緊急要求2 治療研究促進のための「石綿健康被害救済基金」の活用
アスベスト健康被害の中でも、とりわけ中皮腫はいまだに根治が難しく、予後も2年程度の厳しい悪性腫瘍です。2018年にニボルマブ(オプジーボ)が二次治療薬として承認されてから、 わずかに治療選択の幅が広がりました。治療環境の改善をさらに図っていくことは急務です。
しかしながら、研究資金が十分に確保されておらず、中皮腫の治療法開発にとっては不十分な状況が続いています。
具体的には、岡山労災病院ほかで実施された「オプジーボ+ア リムタ+シスプラチン」の三剤併用療法において高い奏功率を示した第二相試験に続く「第三相試験」をはじめとする新規治療が、研究費不足などの関係で実施できない状況にあります。
このような有望な治療研究に全面的な資金投入をして、「命の救済」へ具体的支援をしていくことが求められています。患者と家族が中皮腫を克服できるための治療研究の開発に向けて、大きく前進していかなければなりません。
救済法では、認定者への給付の支払いのために「石綿健康被害救済基金」を設置していますが、令和2度時点で約800億円の残高となっており、それ以前5年間の残高も横ばいが続いており、消化する見込みも全くありません。
しかし基金を、中皮腫などの治療研究へ使えることが定められていません。石綿健康被害救済法第1条の目的に「治療研究の推進」を加え、基金から治療研究分野への金銭的支援が求められます。
国立がん研究センター中央病院 後藤悌先生からのメッセージ
中皮腫は多くの医師にとっても希な病気であり、その治療にも難渋します。保険診療のもとでは、手術・放射線に加え、薬物療法としてはシスプラチン+ペメトレキセド、ニボルマブ、イピリムマブしかありませんので、選択肢は少ないです。しかしながら、中皮腫のような稀な疾患の場合、実際の医療で必要な、経験に裏打ちされた「勘」を働かせるのが難しいために、多くの医療者が自信を持って医療を提供できないというのが実状です。情報が不足していることは治療をする医療者の不安にもつながります。医療者ですらこのような状況ですので、ましてや患者さんの気持ちはどればかりかと、慮れます。
治療開発は、病気の特性、薬の特徴、そして医療経済性など、さまざまな因子が複雑に交差します。中皮腫をみる医療者が治療開発を希望するだけでは社会は動きません。当事者である患者さん、そしてそのご家族がその必要性を切に訴え、医療者や医療行政だけでなく、製薬メーカー、さらには社会の仕組み自体を変える必要すらあると思います。障壁はまだまだ大きいものとは思いますが、このような患者さんからの熱い想いを結集し、さらに一人でも多くの人に届けてその輪を広げ、お互いに協力して進める以外に方法はありません。
中皮腫の患者さんに少しでも良い治療が提供され、病状が改善され、充実した日々を送ることができる環境が作られることを祈念し、また自分もそのお手伝いができればと思っております。
日本石綿・中皮腫学会からの声明
特定非営利活動法人 日本石綿・中皮腫学会は、2022年4月20日付声明文「悪性中皮腫に対する既存の治療薬の適応拡大と、さらなる診断・治療法の開発研究に対する公的支援を要望いたします」を同学会HPに発表しています。希少がんである悪性中皮腫について、現在の医療情勢をふまえて大幅な治療・開発環境の抜本的改善を図ることの重要性、有効性を説き、そのためには公的支援が要であることを強く訴えています。
声明文 「悪性中皮腫に対する既存の治療薬の適応拡大と、さらなる診断・治療法の開発研究に対する 公的支援を要望いたします」
私ども日本石綿・中皮腫学会は、過去 25 年以上にわたり悪性中皮腫患者さんの診療や研究開発 に取り組んできた 2 つの学術団体が統合し、令和元年に発足した特定非営利活動法人(NPO)で す。所属する会員は、悪性中皮腫に対する化学療法、外科手術、放射線療法、画像・病理診断に 関して経験豊富な医師が中心です。会員は長年にわたって多くの悪性中皮腫患者さんの診療に携 わるとともに、悪性中皮腫の原因遺伝子の解明から、より正確な診断法の開発、そして新たな治 療法の開発に取り組んで参りました。
現在、日本では年間、1500 名以上の悪性中皮腫の患者さんが発症されています。悪性中皮腫は 極めて難治性で、この 10 年ほどで治療成績が大幅に改善したとはいえ、多くの患者さんの予後は 未だ厳しい現状があります。その原因の 1 つは、肺がんや乳がんなどの頻度の高い腫瘍に比べ、 使用できる薬剤や治療法が極めて少ないことです。つい数年前まで、進行した悪性中皮腫患者さ んに対する化学療法はシスプラチンとペメトレキセドの併用療法のみでした。他のがんでは著明 な効果を示した分子標的薬も、国内外で精力的に研究が行われたにもかかわらず、臨床試験では ほとんど効果が認められませんでした。
最近の免疫チェックポイント阻害薬の開発は目覚ましいものがあります。私どもの会員の医師 らも参加した、ニボルマブ単独、そしてニボルマブとイピリムマブの併用療法の臨床試験におい て、免疫チェックポイント阻害薬が悪性中皮腫患者さんにも著明な効果が示すことを明らかにし て参りました。その結果、これらの薬剤が一定の条件のもと、悪性中皮腫患者さんに対する治療 薬として保険適応が認められました。このことは、悪性中皮腫患者さんやその家族に対して大き な希望を与えるものでした。
しかし、残念なことに、これらの薬剤を保険適応下で投与できる悪性中皮腫患者さんは限られ ています。例えば、既に他の抗がん剤の治療を受けた悪性中皮腫患者さんにニボルマブ、イピリ ムマブの併用療法を行うことができません。手術との併用も認められていません。そのため、こ れらの併用療法が受けられない患者さんが現在、多数おられます。また、他のがんでは認められ ていて中皮腫でも効果が期待されるさまざまな治療(抗がん剤の組み合わせ、悪液質改善剤、ラ ジオ波治療など)も、悪性中皮腫には保険適応がありません。
通常、薬剤の保険適応拡大を目指すには大規模な比較臨床試験を行ってエビデンスを得ること が求められます。しかし、大規模臨床試験には膨大な資金と時間が必要であるうえ、本来受けら れるはずの治療による利益を被験者が受けられないなどのデメリットもあります。悪性中皮腫は 稀少がんであり、十分な規模の臨床試験を行うことは非常に難しいことから、その実施は困難で す。このままでは、せっかく治療方法が存在するのにその恩恵を受けることなくお亡くなりにな る患者さんが増えるばかりです。私どもは、現在、悪性中皮腫と闘っておられる患者さんに対し て、有効性が期待される薬剤を、安全性を十分に配慮しつつできるだけ多くの方に投与させて頂 きたいと考えています。
そこで、私どもは以下の 3 点を要望します。
1. 現在、悪性中皮腫に認可されている治療薬の保険適応上の制約の解除を要望します。
2. 悪性中皮腫への適応拡大を目指す医師主導臨床試験について、公的な基金等の活用を要望 します。
3. 悪性中皮腫や石綿関連疾患の発症や病態解明および新しい診断法や治療法の開発研究のた めに公的な基金等の活用を要望します。
私ども日本石綿・中皮腫学会を代表して、是非、悪性中皮腫患者さんに対する治療法の適応拡 大を求めたいと考え、ここに広く声明文を公表するものです。
令和 4 年 4 月 20 日
特定非営利活動法人 日本石綿・中皮腫学会 理事長 関戸好孝
理事一同
一般社団法人 中皮腫治療推進基金
民間でも、中皮腫の治療研究を推進していく動きが出ています。2022年には「一般社団法人 中皮腫治療推進基金」が立ち上げられました。今後、既存薬の適応拡大や新薬の承認などに向けて大きな動きが出てくることを期待したいと思います。
緊急要求3 待ったなしの時効救済制度の延長
労災時効となった遺族を対象とした特別遺族給付金について、一部被災者(2016年3月27日以降の死亡者遺族)の請求権が無くなっており、2022年3月28日以降は被災者の死亡から5年を経過したすべての遺族対象者の請求権が無くなってしまいます。 法改正をして、請求権を無期限で延長する必要があります。なお、船員保険受給者の遺族補償に関して、年金受給している遺族がいない場合はその他の遺族へ何の給付もされておらず、同給付金の対象として一時金を支給する必要があります。 石綿救済制度の特別遺族弔慰金・特別葬祭料にかかる法施行前の中皮腫および肺がん死亡者の遺族の請求権が2022年3月28日以降に無くなってしまいます。 法改正をして、請求権を無期限で延長する必要があります。
この問題に関しては、石綿健康被害救済法が改正され、2022年6月17日に施行されました。新たな請求期限等はこちらをご確認ください。
賛同議員
多くの国会議員のみなさまから私たちの緊急要求に対して賛同をいただいております。国会議員で、地元やご関係のつながりがありましたら働きかけをお願いします。
「800億?誰のため、何のためのお金?「石綿健康被害救済基金」を治療研究促進に使って!」環境省・石綿健康被害救済対策室との交渉(2022年5月12日)
<当日ご紹介できなかったメッセージ>
新潟県・中島喜章さん
私は新潟県在住、65才、男で悪性腹膜中皮腫の患者です。23年間内科診療所を行って来ましたが、2016年暮れに全身衰弱で発症し、対症治療を行いながら、原因究明目的に血液、画像診断、上部及び下部内視鏡、果ては骨髄穿刺まで行い、2017年1月10日主治医から病名告知を受け、新潟大学医歯学総合病院腫瘍内科をご紹介いただき、同年2月1日からアリムタ・シスプラチンを6回、その後、アリムタ単剤治療を62回受けました。診療所は2017年2月末で閉院しましたが、2018年11月からお誘いいただき介老健に施設長として勤務させていただいております。この間、SD(安定)が継続するため、2020年10月手術可否判定目的に審査腹腔鏡検査を受けるも、小腸に腫瘍が散在し手術困難と判断されました。更なる効果を期待して、2021年6月からニボルマブの治験に参加し、2022年4月迄で24回受け、6週1回の評価でSDと判定されています。 アスベストの職歴なく、学生、研修医、開業医で手袋の滑りを良くするタルクに混入していたか定かで無く労災の対象にはなっておりません。それよりも幼少期からの身の回り有ったアスベストの方が可能性が高いのではと思います。 治療薬も胸膜中皮腫に準じて選択されますが、制約が有ります。ニボルマブの治験も医師主導治験で東日本では国立がん研究センター中央病院のみで、コロナ禍に隔週で通院し、常に感染しないか、勤務先に持ち込まないかを心配する毎日です。 多くの治療薬が有る時代に症例数が少なく、予算が得られない為に研究が進まない、創薬を妨げている事は私たち患者にすれば到底納得出来ません。SD(安定)がいつPD(進行)になるか等誰にも分からないです。40才台で発症される方もおられ、若い方はお子様も小さく、これからの生活にも影響が大きいです。 税金を注ぎ込んでと言っている訳で無く、今あるお金の一部を有効に使ってくださいとお願いしております。是非ともより良い活用をお願い申し上げます。
医療者関係者(匿名)
病院で相談業務を行っています。中皮腫の患者さんを受けるなかで、治療方法に関する内容が他の疾病の患者さんより多い印象があります。そして治療法が少ないことから、治療実績がある医師が限られています。医師との関係性で悩んでも、医師には何も言えない患者さんや病院が遠方でも時間と費用をかけて通院するしかない患者さんも多いと思います。 近年ではがん患者さんの両立支援が注目されていますが、中皮腫に関しては退職率が他のがんでのステージⅣ相当(末期がん相当)あります。もし中皮腫も仕事を辞めずに治療ができるようになれば、経済面・公費負担面から見ても十分に意義があります。 治療法の開発は患者さんの療養環境の改善、治療や理解がある医師の増加、社会的・公費負担軽減などの様々な面で利点が大きいと思いますので、どうか環境大臣・中央環境審議会の詻門を受けて小委員会の審議をして頂きたいです。
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