【わずか2ヶ月】アスベスト(石綿)が原因の肺がんで異例の労災認定
公開日:2024年3月9日
2024年3月7日の読売新聞夕刊で「石綿作業2ヶ月『労災』 47年後 肺がんで死亡」の記事が掲載されました。本件については、当会で支援をした事案です。
事案の経過概要
傷病名:肺がん
傷病発生日:2016年8月(当時64歳)
被災者死亡日:2017年2月
労災請求日:2022年2月(横須賀労働基準監督署)
労災認定日:2023年2月
被災者遺族居住地:茨城県内
石綿ばく露歴
被災者は、昭和40年代の約2ヶ月間、自動車製造関連会社において、自動車の製造作業で吹き付けなどの高温環境での作業に従事しました。
労災認定までの経緯
被災者および家族は、肺がん発症後、主治医に対してアスベストの関連性について質問をしましたが、喫煙歴等を理由に否定されました。
その後、被災者は死亡し、妻が労災請求および石綿健康被害救済制度の申請(2022年4月)をしました。2022年10月、石綿健康被害救済制度で認定がされました。理由は「広範囲の胸膜プラーク所見」が認められたことによるものです。
他方、労災請求における審査では、地方労災委員は胸部X線写真及びCT画像から石灰化を伴う胸膜プラーク所見は認めたものの、認定基準に定める「広範囲の胸膜プラーク所見」があるとは認められませんでした。労災認定基準を満たしていなかったために、厚生労働省本省での協議事案となりました。
本省協議の結果として、明らかな胸膜プラーク所見が認められること、及び約2ヶ月間、自動車製造作業に従事して高濃度の石綿粉じんにばく露していたと考えられる、と判断されて業務上疾病(労災認定)と判断されました。
本件をめぐる意義と問題
本件は、労災認定基準を満たしておらず、石綿ばく露期間も2ヶ月という極めて異例の状況で認定されました。ご遺族が労災請求等を検討されたのは被災者の死亡後で、石綿ばく露に関する内容も十分にはありませんでした。
本件では、石綿救済制度への申請を同時にしていたことで、労災請求の審査とは異なる「広範囲の胸膜プラーク所見」が確認されたことが大きな影響を与えたと考えられます。
労災制度でも、石綿救済制度でも、肺がんについて認定の根本的な考え方(発症リスク2倍があれば認定する)は同様です。したがって、仮に本件を労災不認定としてしまった場合は、双方に基準は違いますが同じ考え方で運用している石綿救済制度の判定基準及び審査のあり方を否定することになります。そのような理由から、やや異例の形で認定されたと思われます。なお、労災認定では認定基準を満たさないものは認めてはいけないとはなっておりませんので、運用上は問題ありません。
被災者の傷病発生と労災請求等には少しあいだが空いています。いくつか理由がありますが、一つは主治医からアスベストとの関連性を否定されたこと。もう一つは、肺がんをはじめ、アスベスト疾患を発症した患者と家族にとって最も優先することは「治す」ことであり、被災者死亡後も遺族にとっては家族を失ったことを受け入れるにあたり、精神的な困難が大きく、「普通の日常」を取り戻すだけでも大変だったことなどが挙げられます。
そのような事情から、本件は労災認定となりましたが、被災者が受給すべきだった休業補償と請求人に請求の権利があった葬祭料は請求時効となってしまいました。
このようにアスベスト疾患などでは、さまざまな事情からすぐに労災請求ができない方もいます。本来、そのような事情を考慮して、時効等の扱いについては被災者救済の観点から柔軟に取り扱われるべきです。しかし、現行制度では本件のような取り扱いがされてしまいますので、お心当たりのある方は早めにご相談いただければと思います。