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がんゲノム医療って何?-第1回 がんと遺伝子-

公開日:2023年10月6日

執筆者:北関東支部/藤下 一(SNSハンドル名:スノー・マン)

監修者:東京大学医学部附属病院ゲノム診療部 部長・教授 織田克利

最近よく、「がんゲノム医療」という言葉が話題になります。また、中皮腫や肺がんの治療では、「がん遺伝子パネル検査」が用いられています。また、今後「全ゲノム解析」を用いて治療開発が行われるようになるというニュースを聞いたことがある方もいるかもしれません。これから、3回に分けて「がんゲノム医療」を、「がん遺伝子パネル」と「全ゲノム解析」という切り口で解説させていただきたいと思います。第1回目の今回は「がんと遺伝子」と題しての解説です。がんゲノム医療・がん遺伝子パネル検査・全ゲノム解析等の理解を深めるために、まず、がんと遺伝子・ゲノムとの関係から説明させていただきたいと思います。

がんはなぜ起きるの?

まず、「がん(中皮腫やアスベスト起因の肺がんも含みます)」は、なぜ起きるのでしょうか?

それには「遺伝子・ゲノム」とは何かを知る必要があります。「遺伝子」とは細胞の中にあり、体を作り維持していく設計図の役割りを持っています。非常に小さな細胞の、さらにその中にある1ミリの100分の1の大きさの染色体中に人体の設計図が書き込まれているって驚きですよね。また、その遺伝子に書き込まれている遺伝情報を「ゲノム」と呼びます。

そして、この遺伝子に傷がつき(中皮腫やアスベスト起因の肺がんは、摂取したアスベストによって遺伝子に傷がつきます)、遺伝子が暴走したり、逆に働くなくなったりすることで、細胞が際限なく分裂したり転移するものが「がん」です。

がん細胞
出典:がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査 がん発症の仕組み

がんの治療法には、どのようのものがあるの?

次にこのように、がんには3大療法と呼ばれる、手術・放射線治療・薬物療法があります。


出典:がん情報サービス  集学的治療

薬物上記の療法の中には、細胞傷害性抗がん剤(古典的抗がん剤)・分子標的薬・ホルモン剤・免疫療法(免疫チックポイント阻害剤など)があります。この中で、分子標的薬は「がんはなぜ起こるの?」で説明した、遺伝子の異常に着目して、異常部分を“標的”として治療する抗がん剤です。

遺伝子の異常を、どう治療につなげるの?

では遺伝子の異常をどのように見つけ、どのように治療につなげるのでしょうか?

まず、以前よりがん種(臓器)毎に、細胞傷害性抗がん剤の種類が決まっており、その中から抗がん剤が投与されていました。このがん治療を一変させたのが、分子標的薬の登場です。遺伝子検査が実用化されたことにより、遺伝子異常毎に分子標的薬が投与されるようになりました。分子標的薬は、対象のがんの遺伝子異常に特化していることから、奏効率が高いわりに副作用が小さいものが少なくありません。

それぞれのがん種に特有な遺伝子異常を見つける診断方法は、コンパニオン診断と呼ばれ、現在分子標的薬を見つける中心となっています。一方、これまでに中皮腫やアスベスト由来の肺がんに特有な遺伝子異常は同定されておらず、現時点でコンパニオン診断をもちいて中皮腫やアスベスト由来の肺がんに有効な分子標的薬を選定することができないのが現状です。

一方近年、技術の発達により100~700前後のがんに関連する(引き起こす)遺伝子異常を一度に検査できる方法が開発され、保険収載されました。これを「がん遺伝子パネル検査」と呼びます。細胞傷害性抗がん剤・分子標的薬・コンパニオン検査・がん遺伝子パネル検査のイメージを以下の図に示します。


出典:がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査 がんゲノム医療について

また、代表的な保険収載されたがん遺伝子パネル検査は、以下の表に記載されています。これ以外にも保険収載(Guardant 360、GenMineTOP)が進んでおり、加えて先進医療として行われているがん遺伝子パネル検査もあります。なお、石綿健康被害救済法の適用を受けている患者さんや、アスベスト関連疾患で労働災害認定を受けている患者さんのほとんどは、自己負担の費用発生無くがん遺伝子パネル検査を受診することができます。


出典:北海道大学病院 がん遺伝子診断部

がん遺伝子パネル検査はどのように行われるの?

では、がん遺伝子パネル検査はどのように行われるのでしょうか?

まず、上記の保険収載されているがん遺伝子パネル検査を受けるためには、以下のような条件・制約があります。代表的なものを記載します。

・全国に約250カ所ある、がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院によって行われる。なお、自由診療でがんの遺伝子検査実施をうた

う、クリニック等の施設がありますが、ここで取り上げているがん遺伝子パネル検査とは

別物ですので注意してください。

・標準治療が終了または、終了見込みの患者さんが対象で、がん種を問わず一度だけしか

受けられない。

・原則としてがんの組織から直接取ったサンプル(検体)が必要。ただし、現在は血液サンプルでも検査を受けられるようになっています。

・がん遺伝子パネル検査を受診したからといって、必ずしも新たな治療法にたどり着けるわけではない。

・がん遺伝子パネルを受けることで、現在罹患しているがんとは別に、遺伝的に発生すがんのリスクがわかることがある。

 

では、がんの遺伝子パネル検査はどのように行われていくのでしょうか?

以下の、図にある通り、

1.検査説明・同意取得(検査のメリット・デメリットが説明されます)

2.解析試料の選択(適宜、新たに採取)

3.がん遺伝子パネル検査実施(サンプルを海外に送って検査することが多い)

4.エキスパートパネル(ゲノム医療の様々な専門家が治療法を検討する会議)

5.結果の説明・治療選択(希望によって自身のがん発生とは必ずしも直接関わらないような生まれつきの遺伝子変異も説明されます)


出典:国立がん研究センター中央病院 がんゲノム医療とは

次回、第2回の「がん遺伝子パネル検査の現状と課題」では、がん遺伝子パネル検査を受けることで可能となることや、がん遺伝子パネル検査が抱えている課題について説明します。

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