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悪性胸膜中皮腫被災者の遺族が提訴した造船アスベスト国家賠償請求札幌訴訟第1回弁論期日のご報告

更新日:2023年5月27日

公開日:2023年5月25日

執筆・弁護士 段林 君子(桜花法律事務所/札幌弁護士会)

令和5年5月23日に札幌地方裁判所で造船アスベスト国家賠償請求訴訟の第1回弁論期日がありました。裁判所に対し当職が行った意見陳述の要旨を以下のとおりご報告させていただきます。

1 造船アスベスト国家賠償請求札幌訴訟の事案の概要

本訴訟は、原告の亡夫(以下、「本件被災者」と言います)が造船作業及び船舶修繕作業の際に石綿粉じんに曝露したことが原因で、中皮腫にり患して死亡したことについて、石綿(アスベスト)の危険性を知りながら必要な規制を行わなかった被告(国)に対し、国家賠償を求めるものです。

2 石綿の危険性

石綿は、安価で、かつ、耐熱性や防音性など特性にも優れていたことから、建築資材や船舶の不燃材などに幅広く利用されてきました。

しかし、石綿を吸引すると、石綿肺・肺がん・中皮腫などといった重篤な石綿関連疾患を発症することがあり、特に、本件被災者がり患した中皮腫は、少量・短期間の曝露でも発症することが知られています。予後は極めて悪く、一度発症してしまうと、半年から2年程度で亡くなる方も多くおられます。

国は、石綿の危険性を知りながら、長い間十分な規制を取らずに放置し、石綿製品の使用が継続されました。その結果、建設現場や造船現場で多くの人々が石綿の危険性を知らないまま石綿含有建材を取り扱って石綿曝露し、生死に関わる病に苦しむことになってしまったのです。

3 建設石綿被害についての最高裁判決と給付金制度の創設と問題点

ご承知のとおり、令和3年5月17日最高裁判決は、建設作業時に石綿にばく露して石綿疾患にり患した被災者やその遺族らに対し、労働大臣による屋内建設現場における省令制定権限の不行使の違法を認め、国に被災者ないしその遺族に対しての賠償義務を認めました。この規制権限不行使の違法は、具体的には、通達等により石綿の危険性と適切な防じんマスク着用が必要であることを示した石綿含有建材の表示及び現場掲示の指導監督と、事業者に対する屋内建設現場における労働者を従事させる場合の呼吸用保護具の義務付け等です。

当該判決を受け、国は、建設アスベスト給付金制度を創設し、一定要件を満たす石綿被害を受けた建設作業従事者との関係では、訴訟を経ることなく、賠償がなされる仕組みが整えられました。国は、この給付金の支給対象者は、「建設業務」に限定し、本件のような造船作業に携わった被災者やその遺族を制度の対象外とするとしています。

しかし、国は造船現場においても建設現場同様に早くから石綿被害の発生を予想出来たのに何ら対策を行ってきませんでした。国には、建設作業従事者に対するのと同様に、造船や船舶修繕の作業者との関係でも規制権限不行使の違法が存在することは明白で、この給付制度に造船作業従事者を含めて直ちに救済を図るべきです。

4 造船現場における石綿被害

(1)石綿使用は建築物より船舶における方が早く普及していたこと

ア 海上船舶の火災は陸上の建造物におけるのと異なり、エンジンやボイラーといった火災の危険性の高い機材を搭載しています。かつ船内は密閉された空間が多く、また海上に浮かんでいるという状況から、陸上におけるより避難や消火活動が困難です。このため、船舶では、いったん火災が発生すると被害が大きくなる傾向にあり、陸上におけるよりも一層の防火措置が求められ、古くから石綿が使用されてきました。

イ 我が国では幕末には石綿を搭載した輸入船が使用されるようになり、1880年代には国内の造船所で石綿製品が保温、保冷の目的で使用されるようになりました。

1894年の日清戦争、1914年の第一次世界大戦により、船舶における石綿の需要は拡大していきました。我が国での当初のアスベスト製品産業の展開、とくに紡織製品、パッキング・ジョイントシート類の場合、主に造船(海軍)から発展しており、これは日本政府の戦艦建造の方針によるものでした。

戦後、日本では1950年代に造船産業が世界一のシェアを占め、造船ブームとともに石綿製品のブームが始まりました。

1955(昭和30)年頃から結露防止や吸音目的で吹付石綿が船舶や建築物で使用されるようになり、1960年代中ごろより、造船現場では石綿入りのボードが大量に使用されるようになります。

このように、石綿の使用は建築物よりも先に造船現場で普及が始まり、その後建設現場に使用されるようになったという歴史があります。

(2)造船現場における石綿被害の認知

海外では、早くから造船現場における石綿被害が報告されていました。たとえば、1930年代には、ドイツの造船所でアスベスト肺の報告がなされており、これが日本で昭和16年に労働科学という雑誌で紹介されています。

イギリスでも1940年代前半までに吹付アスベストに関して、工場監督官のミアウェザーによって造船関係の作業者を対象とした保護措置が提案され、これがイギリスにおける1960年の具体的な法規制に繋がっています。

このように、一早く石綿が使用されてきた造船現場では、石綿被害の認知も早かったのです。

(3)造船現場の方が建設現場よりも石綿疾患り患リスクが高いこと

あくまで当職の調査によるものですが、造船現場と建設現場における作業従事者の人数は、昭和28年から平成19年までの平均で、建設現場の作業従事者の方が造船の作業従事者よりもおよそ30倍程度になると考えています。

一方で、労災保険及び労災時効救済における支給決定情報の統計が開示されるようになった、2007(平成19)年から2021(令和3)年までの労災保険及び労災時効救済における「船舶製造又は修理業」における支給決定は、1,886件であるのに対し、建設業での石綿疾患を原因とした支給決定は8,832件です。すなわち、建設作業従事者の石綿疾患による労災等の支給決定は、造船等の労働者のおよそ4.68倍(8832件÷1886件)であり、人口比である30倍には遠く及びません。

このことから、造船等の作業従事者の方が建設現場よりも石綿疾患り患のリスクが明らかに高いものと考えられます。数字の正確性の問題はありますが、これらの数字をもとに計算するならば、その発症リスクは約6.4倍と言えるのではないでしょうか。

  (計算式)30÷(8832件÷1886件)≒6.4倍

これらの要因としては、作業環境によるものとしか考えられず、単純に建設作業従事者よりも造船、船舶修繕の労働者の方が多量の石綿粉塵に曝されたからにほかなりません。

すなわち、造船現場では、主に船体内での作業になりますが、船体内では窓もなく、建設現場よりも密閉された空間での作業となり、建設現場以上に石綿粉じんが滞留し、船内で作業した人は高濃度の石綿粉じんに曝され続けたのです。

(4)建設現場と船内で使用される建材が同じものであること

石綿吹付材、スレートボード等の成形品、パッキン類、石綿紐、石綿テープ等の紡織品は、建設現場においても船舶においても使用されていました。そして、同じ石綿製品を使用していることから分かるように、石綿発塵状況はほぼ同じです。

このため、これらの石綿製品による被害が建設現場で発生するということは、造船や船舶修繕の現場でも発生することが当然に予想出来るのです。

(5)船用の不燃材としての石綿製品の開発に国が積極的に関わってきたこと

戦時中の軍艦需要と、戦後の日本の造船産業の発達とともに、船舶の防火の要請も厳格になっていき、船舶における不燃材の使用等が法令や省令、条約で定められていきますが、これらの防火のための省令等が船舶における石綿製品の大量使用へとつながりました。

詳細は省略しますが、運輸省は省令による船舶の法定検査における石綿製品を使用することでの防火構造の合否判定や、不燃材の型式承認制度における石綿製品の承認を通じて、これらの普及に貢献しました。また、当職らは、訴訟で国立の運輸省直轄の研究所を通して建材メーカーと共同して石綿製品の開発や改良に携わってきたことを主張立証していく予定です。

このように、国は、造船現場における石綿製品の普及に大いに貢献してきており、造船現場において石綿製品が使用されていることを知らなかったという事はあり得ません。

(6)国に認められた責任は造船現場に於いてもそのまま当てはまること

このように、石綿製品は造船現場で主に使用され始め、国外では造船現場における被害の認知が早くからなされていたこと、造船等作業者における実際の被害状況から建設現場よりも石綿ばく露がより過酷であったと予測できること、建設現場と造船現場の石綿作業の類似性、国における造船現場での石綿製品普及への関わり等に鑑みると、最高裁判決で建設現場において国に認められた責任は造船現場に於いてもそのまま当てはまるというべきです。 

5 最後に

本件は、造船や船舶修繕作業に従事して石綿疾患になった本件被災者に対する国の責任を明らかにするだけでなく、最終的には同様の造船現場での被害者らが給付制度により訴訟を起こさずとも救済を受けられることを目指す政策形成訴訟です。

少なくとも数千人以上の方の被害救済につながる、極めて重要な裁判ですので、裁判所には、それらを踏まえた適切かつ公正な訴訟指揮を求めました。

以上が、裁判所に対して行った意見陳述の要旨となります。

なお、救済制度に繋げるためには、裁判所に幅広い争点について判断をしてもらう必要があると考えており、そのためには多くの造船や船舶修繕作業による石綿被害者らに訴訟に参加していただく必要があると考えております。造船等の作業で石綿疾患にり患した方がおられましたら、是非ご相談いただければと思います。

参考記事

中皮腫により死亡した遺族が造船作業でのアスベスト被害の補償(賠償)を国に求めて訴訟を提起(札幌、大阪地裁同時提訴)

造船現場のアスベスト被害者へ国は補償を!悪性胸膜中皮腫遺族の訴え(造船アスベスト国家賠償請求北海道訴訟第1回口頭弁論意見陳述)

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