お知らせ

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中皮腫により死亡した遺族が造船作業でのアスベスト被害の補償(賠償)を国に求めて訴訟を提起(札幌、大阪地裁同時提訴)

公開日:2023年2月10日

令和5年2月10日、造船工事及び船舶の補修工事の際に石綿取扱い作業に従事したことにより、石綿疾患(腹膜中皮腫)に罹患し死亡した元従業員(被災者1名)の遺族が国に対して、アスベスト被害に関する損害賠償の支払いを求めて、札幌地方裁判所に提訴しました。概要等をご報告致します。

1 事案

被災者は昭和52年9月から昭和63年7月にかけて造船関連の会社に勤めていた札幌市在住の男性(故人)です。被災者は、令和元年12月に石綿疾患である悪性胸膜中皮腫を発症し、令和3年8月に同疾患が原因で亡くなられました。

被災者は、上記会社で船舶のメインエンジンの取り付け工事に従事し、石綿粉じんにばく露しました。具体的には、造船工事(浸水後の艤装工事)及び修繕工事において、メインエンジンの取り付けを行い、周辺の配管の断熱作業をし、配管に石綿紐及び石綿テープを巻いていく作業の中で石綿粉じんに曝露したものです。

本件は、被災者の妻が原告となって国に対して損害賠償請求をしています。

2 大阪地方裁判所における同時提訴

本件と同じ日に大阪アスベスト弁護団においても同様に造船作業によりアスベスト疾患にり患した元従業員及び遺族ら(被災者単位で7名)が、国に対してアスベスト被害に関する損害賠償を求めて、大阪地方裁判所に提訴しました。

3 国に対する建設アスベスト訴訟の到達点

本件は、建設アスベスト訴訟と密接に関係するため、簡単に建設アスベスト訴訟の到達点についてご紹介させていただきます。

(1)最高裁判所判決

最高裁判所は、建設作業に従事した元労働者等が石綿含有建材による健康被害を受けたことについて国家賠償訴訟を提起した建設アスベスト訴訟において、労働大臣による屋内建設現場における省令制定権限の不行使の違法が一定期間あるとし、被告に、この間に屋内建設作業現場において石綿ばく露して中皮腫等の石綿関連疾患に罹患した建設作業従事者に対する、損害賠償責任を認めました(令和3年5月17日最高裁判決・平成30年(受)第1447号、第1448号、第1449号、第1451号、第1452号・令和3年5月17日第一小法廷)。

※最高裁が違法と認めた規制権限不行使: 石綿含有建材の表示と石綿含有建材を取り扱う建設現場における現場掲示の指導監督についての規制権限不行使の違法と呼吸用保護具の使用を義務付けるべき規制権限不行使

※国の責任期間:昭和50年10月1日〜平成16年9月30日(吹付作業の場合は期間が異なる)

これにより、一定の条件を満たす建設作業従事者の司法救済スキームが整ったことになります。

(2)建設アスベスト給付金制度の創設

上記最高裁判決を受けて、国は令和3年6月9日に「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」を成立させ、同法律は令和4年1月19日に施行されました。

これにより、一定の条件を満たす建設作業者の石綿被害については、行政手続による救済が可能となりました。

4 造船工事と建設工事による石綿被災状況が酷似していること

もともと船舶には第2次世界大戦以前から断熱のため石綿が多く使用されており、戦時中は戦艦にも多く使用されていました。ドイツでは1930年代に造船工場での石綿肺の被害が報告され、イギリスでは1950年代初めには、造船や建設現場におけるアスベストの危険性が問題とされていました。

造船現場では、建築物同様に防火のために断熱材が必要とされ、建設アスベスト訴訟で各被災者らの石綿曝露原因とされた吹付材、スレート材、保温材等の建材と同じものが多く使用されてきました。 

造船現場における石綿取扱い作業は、船内の密閉された屋内空間でなされることが多く、窓等も無い分、建設現場よりもはるかに密閉度が高く、粉じんばく露の危険性が高い作業であることが多いです。

また造船現場における石綿取扱い作業のほとんどは、既に船体のブロックが組み立てられた後に、船体内部でなされるため、建設現場同様、局所排気装置の設置が難しく、昭和40年代以降も石綿工場におけるような防塵対策はされてきませんでした。船の修繕工事においても同様です。

このように、造船(船舶修繕)現場では建設現場と同程度かそれ以上に危険な石綿粉じん現場であったにもかかわらず、建設現場と同様に、防塵対策が十分にされず、石綿被害が拡大したのです。

そして、国は、造船現場における石綿使用状況を知っていたのですから、建設現場において石綿粉じんの危険性や予防の必要性を認識し得た時期には、造船現場においても同様のことを認識し得たはずです。 

したがって、国においては建設現場同様に造船や船舶の補修工事において石綿被害が発生することについて予見できたにも拘らず、適切な規制権限を行使しなかったのですから、造船や船舶補修工事により生じた石綿被害についても建設作業員に対するのと同様に責任を負うはずであり、建設アスベスト給付金の対象に含めるか新たな制度を創設するべきです。

5 造船被害者に対する国の見解

しかし、厚労省は、大阪アスベスト弁護団が造船アスベスト被害を建設アスベスト給付金制度に含めるのかについて照会したのに対し、前記「最高裁判決は造船作業従事者に関する事案とは異なる」等と述べて、建設アスベスト給付金制度による救済を否定しました。

このため、本件の原告は、造船被害者の法的救済スキームを勝ち取るために、本件提訴をすることにしました。

6 本件訴訟の意義

前記のとおり、造船アスベスト被害は未だ国との関係で解決していない問題であり、造船被害者の司法救済の道が切り開かなければなりません。そして、最終的には、建設被害同様に、造船被害者についても法整備又は現行の建設給付金の解釈によって行政手続による救済を目指す必要があります。

このように、本件訴訟は、本件原告のみならず、多くの造船アスベスト被害の被災者ないしその遺族らの救済の道を開くための政策形成訴訟の意義を有しています。

本件訴訟は、10年以上にわたって建設アスベスト訴訟その他のアスベスト被害に関する法律事務を扱ってきた札幌弁護士会に所属する弁護士等が担っております。

本件のような政策形成訴訟では、より多くの同様の被害の存在を裁判所に訴えることで被害の実情の解明に繋がり、より適切な司法救済を期待し得ると考えられるため、造船アスベスト被害者やご遺族の提訴希望者を募っています。造船被害に遭われた方のご相談を受け付けておりますので、ご連絡下さい。

執筆・弁護士 段林 君子(桜花法律事務所/札幌弁護士会)

 

相談連絡先

中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会
フリーダイヤル 0120-117-554

北海道造船アスベスト被害訴訟事務局 桜花法律事務所 弁護士 段林君子
電話 011-596-8251

大阪アスベスト弁護団
フリーダイヤル 0120-966-329

24時間365日受付

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