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超高齢(80歳以上)の切除不能な悪性胸膜中皮腫の患者に対する一次治療としてのニボルマブ・イピリムマブ併用療法の安全性: 後方視的単施設研究ケースシリーズ報告

公開日:2024年3月12日

翻訳責任:中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会

翻訳監修:森本吉恵(京都鞍馬口医療センター呼吸器内科)

本論文はオンライン専用医学雑誌『Cureus』に掲載された「Safety of First-Line Nivolumab Plus Ipilimumab in Very Old (≥ 80 Years) Patients With Unresectable Malignant Pleural Mesothelioma: A Retrospective Single-Center Case Series」(DOI: 10.7759/cureus.)を翻訳したものです。

今後、悪性胸膜中皮腫の一次治療としてニボルマブ(総称名:オプジーボ)とイピリムマブ(総称名:ヤーボイ)の併用療法を検討される方はご参考にしていただき、治療方針の決定には主治医を含めた医療関係者とのコミュニケーションを十分に図ってください。

 

論文:超高齢(80 歳以上)の切除不能な悪性胸膜中皮腫の患者に対する一次治療としてのニボルマブ・イピリムマブ併用療法の安全性: 後方視的単施設研究ケースシリーズ報告

嶋本 貴之1, 森本 吉恵1, 新田 直大1, 吉田 理愛1, 谷 望未1

1: 京都鞍馬口医療センター呼吸器内科
責任著者: 森本 吉恵 

要旨

悪性胸膜中皮腫(MPM)患者に対する一次治療のニボルマブとイピリムマブの併用療法は全生存期間を延長する。しかし、高齢(80歳以上)のMPM患者に対するその安全性はまだ明らかになっていない。我々の病院では、80~90歳のMPMの男性患者3名が一次治療としてニボルマブとイピリムマブの併用療法を受け、いずれの患者も有害事象により治療を中止した。治療開始からの全生存期間は、それぞれ 2.5, 3.5, 4.0 か月であり、超高齢のMPM患者に対してはニボルマブとイピリムマブの併用療法は慎重にされるべきである。

分類: 高齢者医療, 内科学, 腫瘍学
キーワード: 安全性, ケースシリーズ, 年齢, 悪性胸膜中皮腫, ニボルマブとイピリムマブの併用療法

序論

悪性胸膜中皮腫(MPM)は、5 年生存率が約 10%と予後不良な疾患である[1]。 近年、CheckMate743試験(切除不能な悪性胸膜中皮腫への一次治療としてのニボルマブ・イピリムマブの併用療法)で未治療MPM患者へのシスプラチン・ペメトレキセドの併用療法と比較して、ニボルマブ・イピリムマブの併用療法が、 全生存期間(OS)をより延長することが示された[2]。様々なタイプの癌に対して免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療が承認され、多様な健康状態の悪性腫瘍患者に投与されている。

MPM の発症年齢の中央値は76歳と高齢である。CheckMate743試験では、患者の約25%が75歳以上であった[2]。しかし、80歳以上(超高齢)のMPM患者に対するニボルマブ・ イピリムマブの併用療法の効用と安全性は、実臨床では十分に明らかにされていない。

ここでは、ニボルマブ・イピリムマブ併用療法を受けたMPMを有する超高齢患者の3症例について報告する。

症例提示

症例1

80歳男性。定期健康診断にて左胸膜肥厚と胸水が見られた。過去に建築業に従事しており、アスベストに曝露されていた。患者のパフォーマンスステータス(PS)は2であった。胸腔鏡生検にて肉腫型MPMと診断された。一次治療としてニボルマブ(3週毎に360mg)とイピリムマブ(6 週毎に1mg/kg) を投与。6 週間後、胸部CT 検査で肺炎が明らかになった。肺炎の症状はなく、経過観察中に消失した。二サイクル目の投与は慎重に行われたが、患者はグレード2の肺炎を発症し、治療は中止された (図 1A)。肺炎の発症時に呼吸困難を呈した。治療効果判定はStable Disease(SD)であった(図 2A, 2B)。患者はグレード2の肺炎からは回復したものの、治療開始から4.5か月後に誤嚥で死亡した。

高齢悪性中皮腫
図1:2つの症例の肺炎発症時の胸部CT画像

(A) 症例1の肺炎発症時の胸部 CT 画像; (B) 症例3の肺炎発症時の胸部CT画像

 高齢悪性中皮腫
図2:ニボルマブ・イピリムマブ併用治療時の初回 CT 評価

3症例におけるCTでの肺の腫瘍の経過
(A) 症例1の治療開始時の胸部 CT 画像; (B) 治療開始から2.5か月後の胸部CT画像; (C) 症例2の治療開始時の胸部 CT 画像; (D) 治療開始から1.8か月後の胸部CT画像; (E) 症例 3 の治療開始時の胸部CT画像; (F)治療開始から1.8か月後の胸部CT画像

黄線: 標的病変

症例2

90歳男性。労作時の呼吸困難と体重減少を呈していた。胸部CTにて左胸水貯留と胸膜肥厚があり精査のため入院した。PSは2だった。患者は8年間、工事現場で勤務していた。CTガイド下胸膜生検で上皮型MPMと確定診断された。一次治療として、ニボルマブ(3 週毎に360mg)とイピリムマブ(6 週毎に1mg/kg)の併用療法を受けた。2 か月 後、誤嚥を起こし、死亡した。最良総合効果はSDであった(図 2C, 2D)。

症例3

80歳男性。倦怠感があり入院した。配管工事にてアスベストに曝露されていた。PSは1だった。CTガイド下胸膜生検で上皮型MPMと診断された。一次治療として、患者はニボルマブ(3週毎に360mg)とイピリムマブ(6 週間毎に1mg/kg)の併用療法を受けた。治療開始から1.8か月後、胸部CTにて肺炎とMPMの病勢進行が判明した(図1B, 2E, 2F)。肺炎の初期に、発熱と呼吸困難がみられた。有害事象および病勢進行のため、ニボルマブ・イピリムマの併用療法は中止となった。患者は1g/日のメチルプレドニゾロンを投与され、肺炎は改善した。しかし、全身状態が悪化し、治療開始から4か月後に死亡した。

考察

この研究では、MPMを有する3名の超高齢患者がニボルマブ・イピリムマブ併用療法を受け、有害事象のために治療を中止したことを報告した。3症例の背景は表1に記載されている。症例1および3では、肺炎が原因で治療が中止された。症例2では、グレー ド5の誤嚥により中止となった。治療開始からのPFS/OS中央値はそれぞれ2.5および3.5か月で、臨床試験での成績よりも不良であった[2]。

高齢中皮腫
表1:対象患者の特徴
AE: 有害事象; BOR: 最良総合効果; NE: 測定不能; OS: 全生存期間; PD: 進行; PFS: 無増悪生存期間; PS: パフォーマンスステータス; SD: 安定; %FVC: パーセント努力性肺活量

CheckMate743試験には80歳以上の患者が含まれていた[2]。しかし、実臨床下では免疫療法臨床試験に適していた患者はわずか30%のみで、ICI 治療を受けている臨床試験に適さない患者は、適していた患者と比較して全生存期間が短かった[5]。このことは、実臨床下で悪性腫瘍を有する高齢患者への ICI 治療の有効性と安全性を評価することの重要性を支持する。複数の研究で、ICIを軸とした治療を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)を有する75歳以上の患者にグレード3~5の重篤な有害事象が起こり、治療が中止されていることが報告されている[6~8]。NSCLC を有する患者への一次治療としてのニボルマブ・イピリムマブ併用療法のプール解析では、75歳以上の患者への安全性プロファイルは全患者に対してのものと同様だったが、75 歳以下の患者よりも有害事象に関連する治療中止率は高かった[9]。さらに、80 歳以上の悪性腫瘍を有する患者への ICI単剤治療の効果と安全性を評価するコホート研究では、効果は示されたものの、年齢の上昇に伴い、有害事象による中止がより多くみられた[10]。結果として、ニボルマブ・イピリムマブ併用療法はMPMを有する超高齢患者の治療では慎重に選択されるべきである。

我々のケースシリーズでは、2名の患者のPSが2だった。CheckMate743試験ではPSが2の患者は不適格だったため評価されなかった。ICI単剤治療はPSが2の患者にも比較的有効で忍容性もある治療である[3]。しかし、PSが2の患者へのニボルマブ・イピリムマブ併用療法の効果と安全性は明らかではない。悪性腫瘍を有する高齢患者は、日常生活活動能力の低下、複数の併存疾患の既往歴、臓器機能の低下、認知能力の低下により、若い患者よりもPS不良である可能性が高い[3]。PSが2であったことが、治療効果が不十分となった可能性がある。

結論

結論として、一次治療としてのニボルマブ・イピリムマブの併用療法は、超高齢者には慎重に行われるべきである。さらに、ニボルマブ・イピリムマブ併用療法を受けている超高齢MPM患者の臨床での効果を評価するためには、大規模な臨床研究が必要だろう。

参考文献

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malignant pleural mesothelioma: an analysis of the National Cancer Database.
Carcinogenesis. 2019, 40:529-36. 10.1093/carcin/bgz004
2. Baas P, Scherpereel A, Nowak AK, et al.: First-line nivolumab plus ipilimumab in
unresectable malignant pleural mesothelioma (CheckMate 743): a multicentre, randomised,
open-label, phase 3 trial. Lancet. 2021, 397:375-86. 10.1016/S0140-6736(20)32714-8
3. Morimoto K, Yamada T, Takayama K: The landscape of immune therapy in vulnerable
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Res. 2023, 12:2310-21. 10.21037/tlcr-23-581
4. Popat S, Baas P, Faivre-Finn C, et al.: Malignant pleural mesothelioma: ESMO Clinical
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5. Tang M, Lee CK, Lewis CR, et al.: Generalizability of immune checkpoint inhibitor trials to
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10.1016/j.lungcan.2022.01.024
6. Nosaki K, Saka H, Hosomi Y, et al.: Safety and efficacy of pembrolizumab monotherapy in
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7. Morimoto K, Yamada T, Yokoi T, et al.: Clinical impact of pembrolizumab combined with
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2021, 161:26-33. 10.1016/j.lungcan.2021.08.015
8. Fujimoto D, Miura S, Yoshimura K, et al.: A real-world study on the effectiveness and safety
of pembrolizumab plus chemotherapy for nonsquamous NSCLC. JTO Clin Res Rep. 2022,
3:100265. 10.1016/j.jtocrr.2021.100265
9. Paz-Ares LG, Ciuleanu TE, Pluzanski A, et al.: Safety of first-line nivolumab plus
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CheckMate 568, and CheckMate 817. J Thorac Oncol. 2023, 18:79-92.
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10. Nebhan CA, Cortellini A, Ma W, et al.: Clinical outcomes and toxic effects of single-agent
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multicenter international cohort study. JAMA Oncol. 2021, 7:1856-61.
10.1001/jamaoncol.2021.4960

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