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改正大気汚染防止法 資格者によるアスベスト調査の義務付け 板橋区「再開発事業」の問題点から

公開日:2023年11月2日

執筆・建築物石綿含有建材調査者 永倉冬史
(中皮腫・じん肺・アスベストセンター事務局長)

大気汚染防止法の改正によるアスベスト調査の義務化

2021年、大気汚染防止法(大防法)が改正され、アスベストを含む建物や工作物を解体・改造・補修する際の、アスベスト粉じん防止対策が強化されました。この時の改正で、アスベスト含有建材の調査を行うもの(資格者)が、当時、まだ全国で少なかったことを反映し、有資格者によるアスベスト含有建材事前調査の義務付けについては、有資格者が一定の数に達する期間を待って、2023年10月1日から、施行されました。法律による調査資格者は、

  • 一般建築物石綿含有建材調査者(一般調査者)
  • 特定建築物石綿含有建材調査者(特定調査者)
  • 一戸建て等石綿含有建材調査者(一戸建て等調査者)

の3種類です。なお、③は一戸建て住宅や共同住宅の住戸の内部のみ実施可能とされており、ビルや学校、病院などの大型施設の調査はできません。

2023年10月以降の改修工事や解体工事は、この資格を持ったものによる事前のアスベスト調査が行われていなければ、違法工事となります。自宅の改修工事や共同住宅の内装の改造、近隣のビルの解体工事など、これらの工事は資格者による事前アスベスト調査が実施されているかどうかを確かめましょう。

確かめる方法としては、工事説明会の時に、事前のアスベスト調査を行ったかどうか、行った者の資格は何かを訊いて、事前調査結果票に基づいた説明を求めましょう。工事説明会の際のアスベスト粉じん対策の解説は、インターネットなどに使用されているモデル工事の写真などを使って、一般的な説明をする場合が多く、その建物の実際のアスベスト対策とは全く異なっている場合があります。具体的にどの部屋のどこに使われている建材を、いつどのように撤去して、どこに一時保管するか、想定される総量はどれくらいかなどをアスベスト除去業者に説明させることで、工事業者や発注者の工事の安全に対する意識を高めることにつながります。

また、今回の改正により、これらのアスベストに関する工事の情報は、地元の行政へ届出することが義務化されました。建築物の解体の場合、床面積が80㎡以上、改造・改修工事の場合請負金額の合計が100万円以上の場合、アスベスト建材の使用の有無にかかわらず、事前調査結果を都道府県等に報告しなければなりません。アスベスト含有建材がなかったとしても、その根拠を示し届け出る必要があります。ですから、近隣のビルの解体工事などの場合は、地元行政の環境関連課へ問い合わせ、届け出の内容を確認することが可能です。

さらに、事前調査に関する記録は、その写しを工事の現場に据え置くことが義務付けられ、工事終了後3年間保存しなければならないことになっていますので、工事現場で見せてもらうこともできます。

これらの法改正をよく理解したうえで、住民にとって安全にかかわるアスベストに関する情報を工事事業者に説明させ、行政に事業者が届け出たアスベスト対策が十分に実行されているかどうかを立ち入り調査で確認させて、アスベスト粉じんの飛散事故がないように、十分に監視することが重要です。特にいま全国で頻発している、駅周辺の再開発事業に伴う解体工事は、大規模な解体工事が一度に、広範囲に実施され、解体される建物の多くはアスベスト建材が大量に使用されていた時期のものであることが多く、細心の注意が求められます。最近アスベストセンターへも、再開発事業に伴う解体工事で、事前のアスベスト調査が確認できない、発注者の「◯〇再開発組合」がアスベストの情報開示を拒否しているなどのご相談が増えています。

板橋区での再開発事業のアスベスト事例

東京都板橋区では、2020年7月、東武東上線大山駅周辺のハッピーロード商店街の再開発事業が計画され、工事全体の発注者、「大山町クロスポイント周辺地区市街地再開発組合」(以下、「クロスポイント組合」)は、住民説明会を開催しました。

説明を受けた住民は、アスベストに関する説明が不十分とし、質問書を板橋区長および「クロスポイント組合」長あてに提出しました。ここで問題になったのが、解体される対象となった建物が31棟あり、それぞれのアスベスト調査が不十分であったこと、住民に指摘されたことで掲示された調査対象建材が増えたこと、事前調査結果が確定する前に内装解体工事が始まってしまっていたことなどです。

このケースは住民による「アスベストから大山を守る会」の粘り強い活動で、商店街の店舗1軒1軒に工事の問題点を説明し、署名を集め、会は「クロスポイント組合」の事務所を訪れ、アスベスト調査結果表を閲覧し、さらに板橋区役所を訪ね、区の関連部局と話し合いを繰り返し進めました。また、アスベストに関する住民学習会を開催し、大規模解体工事に伴うアスベスト問題の認識を住民の間で共有しました。

これらの運動の結果、事業者のアスベストへの認識を向上させ、住民による工事の監視はある程度できたものと思います。

2023年6月、今度は同じ板橋区で、東武東上線大山駅から3駅離れた上板橋駅周辺の再開発事業が持ち上がりました。ここでも工事発注者は「上板橋駅南口駅前東地区市街地再開発組合」(以下、「上板橋再開発組合」)が立ち上げられています。このケースでは解体される対象建物は73棟にのぼりましたが、これら73棟それぞれのアスベスト建材の掲示はあいまいで不十分なものでした。

これらの点について、「上板橋のまちづくりを考える会」と「東京土建一般労働組合板橋支部」と「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」は連名で、板橋区長及び「上板橋再開発組合」宛に「緊急要請書」を提出しました。このケースでは、住民が工事現場の「上板橋再開発組合」事務所を訪れ、事前のアスベスト調査結果表の閲覧を要請しても、かたくなに拒んでいます。ところが、住民からのアスベスト建材に関する様々な疑問を提出されると、アスベスト建材の再調査がされ、掲示される建材数が増え、指摘される前にはなかったアスベスト含有建材が新たに判明しているケースもあります。住民の指摘で、より安全な工事になっていることは間違いありません。

上板橋の件では、再開発組合事務所でアスベスト事前調査表を、住民が閲覧できない、安全にかかわる情報が、当の住民に開示されないという問題点が浮き彫りになっています。アスベスト事前調査表などは、行政への届け出対象になっていますが、行政への情報公開請求手続きを経て入手しても、解体工事等は終わってしまい、間に合いません。この点に関して、板橋区は公共事業として、この再開発事業に出資しているにもかかわらず、「上板橋再開発組合」の判断だと、行政の役割を回避しようとしています。このような住民への現場の情報提供の拒否は、全国で発生している再開発事業全般にかかわる重大な問題だと考えます。

大気汚染防止法が改正されたことにより、解体工事や改修工事の際のアスベスト対策は強化されています。しかし、全国で一斉に展開している再開発事業や、街中のそこここで日常的に行われている解体工事、さらに、アスベスト飛散問題としては解体工事以上に危険性をはらんでいる内装等の改修工事の際のアスベスト対策は、法改正がきちんと現場で実行されていることが重要です。工事現場での実行を行政が監視し、その行政を住民が監視する必要があります。住民による工事説明会の参加、工事の監視、行政への働きかけが解体工事の際のアスベスト粉じんの飛散を抑制することにつながります。

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