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悪性胸膜中皮腫に罹患しても、病気にはなったが病人にはならない(遺族手記)

公開日:2023年4月1日

※本執筆は、患者・家族の体験をもとに個人の感想として執筆しています。治療選択など、医療に関わる問題については主治医をはじめ、通院されている病院の「がん相談支援センター」など、医療関係者との相談を踏まえてご検討ください。

執筆:東海支部・胸膜中皮腫遺族 後藤里美

主人は2021年2月に63歳で亡くなり、あっという間に二年が過ぎ、今年三回忌法要を済ませました。アスベスト被害を受けなければと腹立たしさと悔しさがこみ上げてきます。

胸膜中皮腫

単身赴任や出張で留守が多く寂しく思うことや、転職の経験もありましたが、二人の息子と嫁に孫と家族が増えて、会えば賑やかな声と笑顔であふれました。余力のあるうちにと65歳で退職し、夫婦で旅行等して楽しく暮らそうと生活設計を立てていました。

そんなある日、主人61歳の2019年2月、みぞおちあたりに痛みを感じ、総合病院の整形外科を受診しました。肺に水が溜まっていると言われ、呼吸器内科で抜くことになりましたが、急激な胸水の増加の為抜ききれず、そのまま入院継続となり胸腔鏡検査等をしました。

その後の診察で先生から「アスベスト関連の仕事に従事していましたか?」と問われ「いいえ」と答えました。「アスベスト曝露による『悪性胸膜中皮腫』、とてもたちの悪いがんです」と告げられました。主人は営業職でしたので、何のことかわからずポカンと聞いていました。「こちらでは抗がん剤治療と緩和治療のみで手術は出来ません、希望の病院があれば紹介状を書きますよ」と言われ、とにかく大変な病気なのだと認識はしました。ネット検索をしても情報は少なく、良いことは書かれてなくてとても辛かったです。

すぐ息子たちとも相談して、愛知がんセンターを受診しました。「手術は出来ない、すぐに治療しましょう」と言われ、改めて大変な病気だと再認識し震えました。

抗がん剤治療をはじめて少し縮小したものの9月に入り急激な痛みと体調悪化で緊急入院、CRP30の異常値に酸素吸入と急激な変化に戸惑いました。腫瘍が急激に大きくなっているとのことでオプジーボ治療になり「お願いオプジーボ効いてください」と思わず点滴の薬に手を合わせて必死に拝みました。

10月の効果判定でオプジーボの効果が出ていると聞き、二人で「やった!」と叫び久しぶりにうれしくて涙が溢れました。治療に一喜一憂の日常だったので、この体調の良い機会に有意義な時間を過ごそうと温泉やドライブに出かけ楽しい時間を過ごしました。

胸膜中皮腫

11月下旬、痛め止めの影響なのか、眠気もないのに瞼が落ちてくることを主治医に伝えたところ、「オプジーボの副作用かも、すぐに神経内科を受診するように」と言われました。検査結果で指定難病の重症筋無力症と診断を受けオプジーボを中止し、治療の為5か月余り入退院を繰り返しました。コロナ禍での入院は面会禁止となり、瞼が上がらない舌の動きもままならずスマホでの連絡ができずにとても辛かったです。

2020年4月下旬オプジーボの副作用も少し治まってはきましたが、腫瘍が再発し中皮腫治療を再開しましたが、肝臓、骨、腹膜へと転移していき効果はありませんでした。主治医から再度オプジーボ投与の打診がありました。治療に関してはいつも同じ考えでしたが、私は効果があっても副作用で悩まされたので「嫌だ」と気持ちをぶつけて拒否をしました。しかし主人は「副作用は薬で抑えられる」と意思は固かったので覚悟を決めて受け入れました。

2021年、その後色々な治療を受けてなんとか2回目のお正月を迎えましたが、外出は車いす移動となりました。痩せたとはいっても体格の良い主人を乗せての移動は扱いに一苦労でした。2月26日、前日まで自宅で過ごしていましたがその夜、トイレに行って立ち上がれなくなり翌日緊急入院しました。そして、次の朝急変して亡くなりました。あっという間の出来事に気持ちがついていかなかったです。

少ない情報を頼りに先の不安を感じながら今できることを模索しました。中皮腫サポートキャラバン隊や患者と家族の会に出会い、緩和ケアに介護申請、訪問看護も受けてお助け窓口を色々つくり、相談や困ったときに情報をいただき助けてもらいました。この病気を通して多くの方に出会い、励まし支えていただき、繋がった方々と話すことで孤独ではないと何度も気持ちを切り替えることもできました。患者さんはもちろんですが支える家族も本当に辛いです。一人では抱えきれなかったです。気持ちを吐き出せる相手と場所があるというだけで気持ちが楽になりました、遺族になった今でも支えてもらっています。

アスベスト対策の遅れが主人の命を奪いました。命は戻ってきません。これからも被害者は出てきますし、生活保障に遺族補償の差と問題も山積みです。治療は患者、家族、遺族と協力団体が声をあげて訴え、少しずつかもしれませんがこの数年でオブジーボ単剤にオブジーボ&ヤーボイの投与も可能になり、医師主導の治験も進み今まさに胸膜以外の中皮腫にオブジーボ投与の早期承認要請の署名と動きだしました。主人は叶わなくて残念でしたが、現状を可能な限り維持してあきらめず新しい治療に希望をもってもらいたいと思います。

『病気にはなったが病人にはならない』を合言葉に、主人の意思を尊重しながら丸2年寄り添ってきました。主人は最後まであきらめなかったので支える私は心丈夫でした。パート仕事と5年前から始めた山登り、自分の気分転換も大事だと思い闘病中も可能な限り出かけました。残された人生を主人の分まで私らしく明るく楽しく生きていきたいと思います。そして私の経験が患者さんや家族の方々の少しでもお役にたてればと思っています。

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