【全国初】建設アスベスト給付金減額認定の取消訴訟判決
公開日:2026年1月8日
執筆者:段林君子(弁護士/桜花法律事務所)
1 はじめに
令和7年12月16日付で東京地裁が,国(厚労省)による建設作業による石綿ばく露期間(※1)の短さを理由として建設アスベスト給付金(※2)を減額した認定が違法であるとして,当該認定を取り消す内容の判決を言い渡し,その後無事確定しました。当該訴訟の代理人を務めましたので,他の事案の参考にしていただくため,事案をご紹介させていただきます。
報道によると,建設アスベスト給付金制度(※2)が出来て以降,認定が取り消されるのは全国で初のようです。
2 建設アスベスト給付金制度について
建設アスベスト給付金の制度は,令和3年の最高裁判決等により,建設作業従事者が建設作業により石綿にばく露して石綿関連疾患に罹患して精神的苦痛を受けたことについて,国の責任が認められたことに鑑み,被害者への損害の迅速な賠償を図る趣旨で作られました(令和4年1月19日施行)。行政手続を創設したことで,手続きが簡易になり,簡易迅速な救済が期待されていました。
特に,労災で建設作業による石綿ばく露が認められた期間については,労災支給決定等情報サービス(詳細は厚労省のホームページをご覧ください)の利用により,必要書類の省略等,手続きがさらに簡易化されています。こうした事案では,被害者が特段の不便なく手続きを終えているケースは多くあるのではないかと予想しています(但し,認定までの時間が長期化している問題がありますが,この点は本件では割愛します。)。※3
他方で,労災で石綿ばく露歴がありとされない期間については,労災支給決定等情報の「石綿ばく露作業従事歴期間」に記載されません。制度上は,労災支給決定等情報において「石綿ばく露作業従事期間」の記載が無くても,被災者の就業歴・石綿ばく露作業歴の分かる資料を提出することで,石綿ばく露作業従事が認定されうることになっています。
しかし,本件では,当該被災者の労災支給決定等情報に「石綿ばく露作業従事歴期間」として記載されていない期間について,石綿ばく露作業がなされていたことの証拠を提出いていたにもかかわらず,認定決定処分と審査請求の段階で特定石綿被害建設業務は無しとされ給付金が1割減額されたのです。
3 本件事案の説明
被災者は,70代半ばの北海道在住の男性で,昭和55年以降,主に牛舎の建設工事等に従事し,建設作業の際に石綿にばく露して肺癌にり患しました(建設業をしていない時期もあります)。
当該給付金制度上,肺がんの場合,石綿ばく露作業期間が10年に満たないと給付金が1割減額されることになっています。
被災者は,建設アスベスト給付金の申請の際に,10年以上の石綿ばく露期間があるという前提で申請をしましたが,この点が認められず,1割が減額されました(金額にして103万5000円の減額となる)。
そこで,この点を不服として,被災者は東京地裁に当該認定決定処分の取り消しの訴訟を提起しました。
4 重要な判示
東京地裁は,特定石綿ばく露建設業務従事期間に関する事実認定の手法について触れています。この点は今後の訴訟や給付金制度における実務にも影響があると考えられ,重要な判示部分です。
前提として,令和4年1月31日付の特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会による「特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会における審査方針」では,「具体的な判断に当たっては,特に就労歴や喫煙の習慣等について,その立証が容易でない場合も想定されるので,同種事例の裁判例も踏まえて,関係者の証言や申述等の内容が,当時の社会状況や被災者が置かれていた状況,収集した資料等から考えて,明らかに不合理でない場合には柔軟に事実を認定する」とされています。
東京地裁はかかる審査方針について,給付金の制度趣旨に照らして「合理的」とし,訴訟手続きでの事実認定についても,「本件において,原告が主張する特定石綿ばく露建設業務従事期間に関する事実の認定に当たっては,(略),関係者の証言や申述等の内容が,当時の社会状況や被害者が置かれていた状況,収集した資料等から考えて,明らかに不合理でない場合には柔軟に認定するのが相当である」と判示しました。
そして,本件の個別の特定石綿ばく露建設業務従事期間の認定にあたり,当該基準を前提に事実認定をしました。
5 個別の事実認定
本件では,原告は給付金の申請をする何年も前に事業を廃止し,決算書類は全て廃棄しており,事業当時関与していた税理士や,土木の許可申請を依頼していた行政書士も,何も記録が残っていないという状況でした。アスベストの被害は潜伏期間が何十年とあるので,病気を発症するまでに,証拠になる資料が散逸し,関係者との関係が薄れていきます。本件原告もまさにそのような状況でした。
国は,前記審査方針に反するようなシビアな立証を求め,重箱の隅をつつくような主張を展開しました。
それに対し,東京地裁は前記の判示どおりの事実認定の手法により,原告の主張を一部認めて,10年間の特定石綿被害建設業務を認め,厚労省の認定が違法であると結論付けました。
以下,原告の労災聴取時の説明,給付金申請時の主張と証明資料,訴訟での当事者の主張等を表にしてみました。要約しているため,不正確な内容になっている可能性があることはご容赦いただきたく思います。
6 運用上の問題について
上記判決では,審査方針に沿う事実認定の手法が示され,妥当な判断がなされたと評価しています。
他方で,そもそも給付金の申請段階で,Zによる第三者証明を提出していたのに,期間D,期間Eについて,特定石綿ばく露建設業務であると認定しなかった厚労省の対応は審査方針に反し,本件給付金制度の迅速な救済という趣旨を損なうものであったと思います。
労災の聴取時には,労災の支給がなされるだけの事情が分かれば,後は省略するような実務運用も実際になされています。給付金の要件としては重要な点であっても,労災では調査が軽視され,にも拘らず,給付金の認定をする際には労災時の調査結果だけが過度に重視されるということがあります。
報道でもありましたが,給付金の申請に対して不認定事案が相当数あるようで,中には本件のような審査方針に反する事実認定がなされたものもあるのではないかと懸念しています。
今後の運用を見守っていきたいと思います。
※1 正確には特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律第2条の「特定石綿ばく露建設業務」のことです。
※2 特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律による給付制度,給付金のことです。
※3 建設アスベスト被害に関しての弁護士事務所による宣伝広告を見かけるようになりましたが,建設アスベスト給付金の申請に関して「自分で出来ると知らずに必要もないのに弁護士との委任契約をしてしまった」という相談がなされているといった話も聞くようになりました。この記事をご覧になる被害者等が,アスベスト被害=弁護士に必ず依頼しなければ解決しないと誤解されないように,付記することにしました。弁護士介入の必要性について,事案ごとに十分情報を収集して弁護士との委任契約を検討していただきたいと思います。
