地方公務員災害補償基金の「専門委員・専門医名簿」:アスベスト(石綿)被害の救済の姿勢に不信感
公開日:2025年10月3日
執筆:事務局長 澤田慎一郎
地方公務員災害補償基金とは
地方公務員災害補償基金(以下「基金」)は、地方公共団体等の職員が公務上の災害または通勤による災害を受けた際、地方公務員災害補償法に基づいて補償を実施する地方共同法人です。基金の業務には、補償及び福祉事業、認定・補償等の手続、不服申立て、そして公務災害防止事業が含まれまています。
この基金は、職員が罹患した病気が業務に関連するものかどうか(公務上外の判断)を審査し、アスベスト(石綿)関連疾患についても判断する役割を担っています。基金の運営費用は、各都道府県からの拠出金、すなわち私たち国民の税金で賄われています。
専門委員名簿開示請求に対する「真っ黒な」回答
当会は、基金に任命されている専門委員および専門名簿の開示請求(法人文書の開示の申し立て)を実施しました。しかし、届いた「開示決定通知書」は、委員の氏名や役職、肩書きなど、ほとんどの情報が真っ黒に塗りつぶされた状態でした。

この結果、誰が、どのような専門的な知見をもって公務災害の審査・判断に関わっているのかが、国民には全く分からないブラックボックスの状態となっています。
税金で運営されている公的団体が、審査に関わる専門委員の最低限の情報を国民に対して適切に提示・開示しないことは、極めて大きな問題です。
公務災害認定における深刻な格差と不透明な判断基準
なぜ、委員の名簿の公開が重要なのでしょうか。それは、基金による公務災害の認定、特にアスベスト関連疾患の認定プロセスが、極めて不透明で恣意的な判断によって行われている疑いがあるからです。
アスベスト関連疾患に対する基金の認定率は、労災の認定率と比べて大きな開きがあります。全国労働安全衛生センター連絡会議の調べによると、公務災害の中皮腫の認定率が52%、その他アスベスト疾患全体では44%です。一方で、労災ではそれぞれ認定率が80%から90%に達しています。
民間職員の労災と、地方公務員の公務災害とで、アスベストばく露の形態が大きく異なるとは考えられません。にもかかわらず、公務災害の認定が非常にハードルが高く、業務との関連性を認めようとしない実態があります。
基金の審査における不当な判断の例として、中皮腫を発症した山梨県の元指導員の事例があります。この事案では、被災者が亡くなってから約40年を経て逆転認定に至るまで、長期にわたる裁判闘争を要しました。このケースでは、基金の専門委員は、以下のような労働災害認定基準に準拠していないとされる判断を下しました。
潜伏期間の「短さ」を理由とする否定
アスベストばく露開始から発症までの期間(14年)を「短い」として否定しました。しかし、労災認定基準においては、10年以上経過していれば問題なしとされました。
ばく露量の「少なさ」を理由とする否定
「大量にアスベストを吸ったわけではない」として否定されました。しかし、中皮腫は閾値がないとされ、ばく露量が少なくても発症する可能性があり、労災ではばく露量が少ないことをもって否定の根拠にはしていません。
このように、地方公務員災害補償基金は、審査体制が労災認定基準を無視した専門委員の独断と偏見によって恣意的な判断をされています。事務局側が労災認定基準の知識をもって専門委員の判断を起動修正できていないという構造的な問題があります。
他の公的機関との透明性の格差
基金の開示拒否の姿勢は、他の公的機関の対応と比べても特異であり、不信感を増しています。
厚生労働省が設置する「石綿に係る疾病の業務上外に関する検討会」は、審査に関わる委員をホームページで公開しています。環境省省が設置する「石綿健康被害判定小委員会」も、委員の名簿をホームページで公開し、誰が判断しているのかを公にしています。
厚労省や環境省が審査委員の氏名等を明らかにしているにもかかわらず、基金だけが情報を伏せることは、基金の審査体制に対する不信感を増す原因となっています。名簿の公開によって、これら委員に大きな不利益があった事例は、アスベスト関連の問題に関しては一度も聞いたことがありません。
労災と比べて認定率に大きな開きがある実態を是正し、理不尽な扱いを受ける被害者をなくすためにも、審査に関わる情報や、その運営について透明性のある運営を強く求めていきます。