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30年以上前の「中皮腫」死亡 証言のみの「死因確認」でアスベスト(石綿)労災認定

公開日:2023年7月6日

執筆:中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会事務局
澤田慎一郎

本日、石綿労災認定において前例がないと考えられる事案につき、報道発表を致しました。当該事案について解説致します。

中皮腫を証言のみで「死因確認」したアスベスト労災の概要

札幌市在住のアスベスト被害を受けた遺族が、夫の中皮腫による死亡に関して労災請求(石綿健康被害救済制度に基づく労災時効救済制度)したところ、2023年1月31日に札幌中央労働基準監督署が業務上認定をしました。

本件は被害者の死亡を確認する公的、あるいはそれに準ずる書類が一切ありませんでした。何らかの書類上で死亡が確認できない被害に関して、労災認定された事例は石綿(アスベスト)労災を含め、労災保険制度上でも全国初の事例と考えられます。

アスベスト被害は何十年も前のアスベストばく露を原因とするものであり、被災者が何十年も前に死亡している場合においても石綿健康被害救済法によって何らかの救済を受けられる可能性があります。しかし、3万人以上の遺族は救済に関する制度を知らなかったり、死因や石綿ばく露の実態が確認できないなどの理由で、何らの救済も受けられない実情があります。本件は、そのような状況に一石を投じる極めて画期的な認定事例です。

中皮腫を証言のみで「死因確認」したアスベスト労災の被災者の概要

傷病名:胸膜中皮腫
傷病発生日:1988(S63)年(当時40代)
死亡日:1989(H1)年
労災請求:2022年3月(亀戸労働基準監督署)
労災認定:2023年1月(札幌中央労働基準監督署)

中皮腫を証言のみで「死因確認」したアスベスト労災の請求人の概要

被災者との関係:妻
居住地:札幌市

中皮腫を証言のみで「死因確認」したアスベスト労災の石綿ばく露歴

S42年からS44年の間における2年以上、建設会社に勤務。遺族は、被災者が全国のトンネル工事作業に従事したことに関連して石綿にばく露したと主張。具体的な現場名は不明なものの、会社の退職者台帳から、電気設備関係の保守管理等を主に行う「機電」の職種であったことが確認された。会社も石綿ばく露が否定できないとの申し出があったことから、労災認定基準に定める1年以上の石綿ばく露業務があったことが認められた。

中皮腫を証言のみで「死因確認」したアスベスト労災の認定のポイント

本件は一時、不認定の決定直前まで労働基準監督署の調査が進んでいました。理由は、「死因」が客観的に確認できなかったからです。遺族および複数の親族から「中皮腫」が死因であったこと、亡くなった当時の経緯などを主張する書面を提出していました。また、当時、治療を開始し死亡まで通院していた北海道内の医療機関に、死亡日までの中皮腫の通院治療に関わる記録(病理診断結果報告(MESOTHELIOMA MALIGNANTの記載)、入院証明書)は残っていました。しかし、札幌中央労働基準監督署は「死因」が確認できないとして認定に難色を示していました。

そのような状況において、遺族および当会から、当時の主治医ないし関係する医療者情報を、労働基準監督署から病院に協力を求めて追跡するよう要請しました。その結果、当時の関係者と労働基準監督署が接触し、その関係者の「証言」をもって死因確認としました。

推察するに本件被災者の死亡時、日本でも「中皮腫」は珍しく、当該医師もそれまでに中皮腫症例をみたことがなかったか、あったとしても数例程度ではなかったかと考えます。そのような意味で、一定、記憶にとどまっていた可能性があります。

石綿ばく露について請求人の主張と労働基準監督署の調査結果に大きな相違はなく、結果として労災認定となりました。

中皮腫を証言のみで「死因確認」したアスベスト労災の認定の意義

本件は昨年3月に当会が実施した「労災時効救済制度」の請求期限が切れることを呼び掛けたホットラインでご相談をいただき、時効前に請求に至った事案でした(なお、昨年6月に議員立法によって時効救済制度は請求期限が10年延長された)。

3つの緊急要求で示したように、私たちの推計では、3万人以上にのぼる被害者が何らの救済を受けていない状況があります。未救済の方の多くは、①労災等の関係制度をそもそも知らない方、②これらの制度があることは知っていても、「死因を証明できる資料」や「アスベストとの関わりがはっきりわからない」などの理由で請求をためらっている方、に大別されます。

このような状況がある中で、「客観的に死因を証明できる書類」がない形で全国で初めて、労災保険制度がはじまって以来はじめて認定された極めて画期的な事例です。本件はアスベスト被害者救済のあり方に一石を投じた事例であり、他の被害者に対して、どのような状況にあってもあきらめずに請求をすることの意義を示したと言えます。私たちのこれまでの相談事例では、死因が確認できずに請求を断念、あるいは不認定となった遺族がいます。全国では現在でも年間で約1600名の方が中皮腫で亡くなっており、北海道は全国で5番目に被害者が多いです。まだまだ、そのような方が多くいるはずです。

一方で、本件のような状況が整わない遺族もおり、私たちは統計法の改正による死亡小票の活用による死亡原因の確認ができるよう引き続き求めていきます。

中皮腫を証言のみで「死因確認」したアスベスト労災の請求人コメント

死亡診断書も何もないところから出発した労災請求がまさか認定されるとは思ってもいませんでした。

しかし、率直な気持ちを言えば、本当は生きていたかもしれない夫の無念を晴らす闘いにやっと勝てたんだ、というほっとした気持ちです。

夫は私のことをとても大切にしてくれていました。亡くなる時も私の行末を心配してくれていたと思います。

存命中、アスベストに関する記事を夫が見たとき、「俺もこれだ」と、自分の病気とアスベストが関係あると分かっているようでした。ここまで、夫が見守っていてくれていたと思っていますし、少しは安心もしてくれたと思います。

労災請求してから、あきらめかけていたとき、労働基準監督署や支援者の方から何度も諦めないでくださいと励まされました。私の訴えをみなさんがきちんと受け止めてくださっていたのだと思います。

私のように、半信半疑で労災請求をしていない方も多いかと思います。私も過去二度、別の相談機関に相談したことがありましたが相手にされませんでした。諦めずに請求していただければと思います。

 

 

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