厚生労働大臣 殿

2004年7月20日

中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会
(事務局担当 植草和則)
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中皮腫・石綿(アスベスト)肺癌の
健康対策の充実に関する要望

 日頃より貴職のご活躍に敬意を表します。

 私達は、胸膜や腹膜にできる悪性腫瘍である悪性中皮腫、石綿(アスベスト)による肺癌、良性石綿胸水及び、びまん性胸膜肥厚等の石綿(アスベスト)関連疾患に罹った患者と家族の集まりです。ご存じの通り、悪性中皮腫の80%は職業性石綿(アスベスト)曝露が原因とされています。多くの仲間が全国各地で孤立しながら闘病を続けてきましたが、2002年4月より交流を深め、本年2月7日に患者と家族の会として正式に発足致しました。2004年6月25日現在全国の44人の正会員と24人の賛助会員が会の活動を支えています。

 私達はこの6月、中皮腫及び石綿(アスベスト)肺癌の本人及び家族(遺族)が突然の病気の告知にはじまって体験してきた筆舌につくしがたいつらさや苦しみを関係各位にご理解頂くために、全正会員を中心に実態調査のアンケートを実施致しました。この調査は、悪性中皮腫の患者及び家族のおかれている状態を日本で初めて把握したものと思われます。その結果、主に次のような点が問題である事を、再確認致しました。

  • 石綿(アスベスト)が身近に存在する発ガン物質であることを広く知らせるべきである。
  • 悪性中皮腫に効く薬を開発して欲しい。
  • 医療関係者の悪性中皮腫への認識が足りない。
  • 患者と家族への心のケアが早急に必要である。
  • 治療の経済的負担を軽くするために、労災の認定を迅速にお願いしたい。
  • 治療法が確立していないので、保険適用外の高額な治療法に頼らざるを得ない。

 治療困難な悪性疾患としてケアを含めた医療政策、労災保険認定の迅速な対応等が急務であると考えて、以下の点について要望致します。

1.健康管理体制全般に関して

 本来、ある疾患の健康管理体制として、疾患の原因を無くす1次予防、早期にリスクの高い疾患を発見する2次予防、更に発症後の影響を最小にとどめる3次予防の順番で考える事が必要であるとされています。しかし殆どの患者さんとご家族が悪性中皮腫と診断された時点では、悪性中皮腫という病名も知らない状態であったと答えています。悪性中皮腫及び肺癌と診断された時に石綿(アスベスト)の言葉を知らなかった方が32%もいました。この事は、高血圧と塩分の関係が広く知られている様に、本来健康リスクのある人が知らなくてはいけない基本的な情報すら、全く本人や家族に伝わっていない事を示しています。現在まで多様な産業や職場で石綿(アスベスト)が使用されてきましたが、従業員には使用の事実が知らされていないことも多く、石綿(アスベスト)曝露状況の把握を従業員自身の記憶に頼って思い出しているのが現状です。使用者は雇用した従業員に対して、安全や衛生に関して配慮する義務があります。当然の事ながら、職場における石綿(アスベスト)の使用の事実と、今後生じうる悪性中皮腫等の疾患に対する健康教育及び健康診断、及び取りうる防塵対策に関して、使用者は入社時及びその後の安全衛生活動の中で十分果たさなければいけない責務をおっています。しかしながら、石綿(アスベスト)という言葉すら発症時に知らなかった方が多い実態は、こうした事が十分行われてこなかった事を如実に物語っています。

1)監督署が所轄の地域で石綿(アスベスト)を過去に使用していた事業所(建築及び造船の全事業所、及び特化則に基づく1975年等の過去の調査やPRTR法に基づく調査結果を利用して把握できる事業所)に対して、入社時の安全衛生教育及びその後の安全衛生活動の指導項目として、じん肺法及び特化則に基づく健康診断、健康教育、防塵対策の実施について監督されてきた実績を、1970年以降現在まで年度別に数値でお示し頂きたい。現在まで指導監督の実態が少ないとすれば、今後どの様にされるおつもりか計画をお示し頂きたい。

2)監督署が所轄の地域で石綿(アスベスト)を過去に使用していた事業所(建築及び造船の全事業所、及び特化則に基づく1975年等の過去の調査やPRTR法に基づく調査結果を利用して把握できる事業所)に対して、現在および過去の従業員に対して、石綿(アスベスト)使用の事実と石綿管理手帳の取得について周知することを指導監督した実績があれば数値でお示し頂きたい。現在まで指導監督の実態が少ないとすれば、今後どの様にされるおつもりか計画をお示し頂きたい。

3)発ガン物質など有害な物質を扱う作業に従事していた退職者に対し、年2回の無料の健康診断が受けられる、労働安全衛生法に基づく健康管理手帳制度があります。しかし石綿(アスベスト)を過去に扱ってきた多くの退職者がこの制度、石綿管理手帳を利用していないのが現状です。その理由として他の発ガン物質と異なり、石綿(アスベスト)の場合は石綿肺・胸膜肥厚斑があることを交付要件にしているからです。手帳の交付要件を石綿(アスベスト)の曝露年数を基準にするよう変更をお願いしたいが、お考えをお聞かせ願いたい。

4)石綿健康管理手帳制度による健康診断を受けられる医療機関は、厚生労働省が認可する都道府県2-3カ所限定のため、2002年の石綿管理手帳の交付は510件にとどまっています。そこで、近隣で健康診断を受けられるよう医療機関を増やし、かつ、許認可ではなく届出制にしていただきたい。

5)日本では実態調査や疫学調査が、石綿工場の一部と造船所の一部を除き実施されていません。十分な健康管理体制が確立していない背景には、自動車や様々な建築業関連含め最盛期に3000種類と言われる石綿(アスベスト)製品の生産と使用の実態に関する研究が行われていない事が考えられます。そこで、石綿製品の生産と使用と曝露の実態に関する研究を早急に実施し、結果を公表されたい。その結果により必要な疫学調査を実施して頂きたい。

2.悪性中皮腫の診断とその後の不安に関して

 悪性胸膜中皮腫や悪性腹膜中皮種の予後は平均1年前後の場合が多いとされる悪性疾患でもあります。特に肉腫型や2期以上の病期である全体の半数前後の本人や御家族にとっては、診断時がすでに予後半年以内の末期状態であるので、難治性悪性腫瘍としての医療上の対策が急務です。国際的にも悪性中皮腫の十分な治療方法がこの数年以内には見つからないとされる中で、患者と家族への心のケアの体制こそが医療体制の中で不可欠と思われます。

1) 現在及び過去に困っている(いた)症状及び不安

「痛み・食欲の低下・不眠・憂鬱な気分になる・涙もろくなった」と訴えた方が、4割近くいます。特に「自殺を考えたことがある」と回答した方が13%認められ、この病気をかかえる本人や家族の悩みが深い事が伺われます。

【事例】50才の男性は悪性胸膜中皮種で、病名等を告げられてすべてを理解して日々を過ごしている。痛み・食欲低下に耐え、治療のすべのないまま、この先どういう経過をたどって死へと向かうのかと、訪問看護や医療のサポートはあるが不安におびえている毎日である。

【事例】60才の女性は悪性腹膜中皮種で夫を亡くした。夫は腹膜中皮種と判明し腹腔内に抗ガン剤の投薬をうけ、診断後40日で永眠した。あまりに瞬く間の出来事であり、永眠後半年以上たった今も、何もする気もなく眠れず、時に死が頭をかすめる等精神的動揺が続いている。

 その他代表的には、「家族としてただ見ているだけで、何もしてあげられなかった気持ちが残る。」「ガンより深刻で、手術も放射線治療も効かないと言われ絶望した。」等の意見が多くありました。以上に述べた様に、あまりに早い経過をたどるこの疾患は、職業性疾患対策という担当以外に、極めて予後の悪い悪性疾患としての医療対策として位置づけておく必要があると私達は考えています。また中皮腫が告げられた時点からの外来及び入院時の十分な看護ケアの体制がかかせないと考えます。

 そこで、今後は悪性中皮腫の医療体制の中心として、本人及び家族のケアに関する点を位置づけて頂きたい。そのための研究体制を早急に整備し、その際には当事者が委員として参加できるようにして頂きたい。以上の点に関し「看護の観点での担当者」及び「終末期医療の担当者」に是非私達の想いを聞いていただき、今後の道を一緒に考えていただきたい。

2)私どもの調査結果によりますと、悪性中皮腫の診断がつくまでに6ヶ月かかる場合も多く、悪性中皮腫と肺癌(腺癌)等の診断がつかないために、本人や家族が振り回されるケースが数多く見られています。

【事例】監督署申請中のケース:今年労災申請を行ったが担当医の知識不足により、なかなか申請用紙の医療機関の証明を書いてもらえなかった。徐々に手続きが進められ、最終段階にきて確定診断として免疫染色を行っていなかった事が判明した。確定診断をしないままに「手術」を行っていた事になる。

【事例】大学病院にかかっているケース:大学病院で本人が依頼しているのに「組織診断書のコピーは、労働監督署の調査があれば協力します。」と複写を拒まれた。しかし実際に監督署が調査依頼をするとなかなか書類を提出せず、実は十分な免疫染色をしていなかったため追加で行っていた事が判明した。「研究のための治療」をしていたのでは?と思わざるを得ない。

【事例】Aさんのケース:B市民病院で医師の面談をした折に、確定診断上で免疫染色検査が必要になる事が多い事を話した。すると「そんなに、認定上必要な項目ならば行政から病理の方に通達を出しておくべきだ。」と医師は憤慨していた。この方は死後解剖も行っていないためこれ以上検査は出来ない。

 以上の事例から、悪性中皮腫の確定診断に必要な免疫染色等のモデル例を労災認定基準等に明記し、医師向けに是非お示し頂きたいと考えますが、お考えをお聞かせ願いたい。また最後の事例の様に、追加の検査が困難な例への労災適応のお考えをお聞かせ願いたい。

3)ヨーロッパでは、がん登録の一つとして、中皮腫登録制度のある国が多く、中皮腫の診断から原因の確認まで一貫した体制があります。日本では中皮腫登録制度がありませんが、病理診断の精度の向上や原因調査により労災認定を正確かつ迅速にする為に有効であると考えます。中皮腫登録制度導入についてのお考えをお聞かせ下さい。

4)職業性アスベスト曝露者は絶えず発症の不安にさらされて生活されています。そのために、諸外国では多くの研究者が悪性中皮腫及び石綿肺癌の早期発見に取り組んでいると聞きます。日本においても、悪性中皮腫及び石綿肺癌の早期診断の基礎的研究(血清及びCT診断等含む)や健康診断の体制に関する研究を強力に推進していただきたいが、お考えをお聞かせ願いたい。

3.悪性中皮腫の治療に関して

 現在有効な治療法がない事が、悪性中皮腫の本人や家族を苦しめています。第3次対がん10カ年総合戦略において、1.がん研究の推進 2.がん予防の推進 3.がん医療の向上とそれを支える社会環境の整備が掲げられています。重点的研究課題の(1)学横断的な発想と先端科学技術の導入に基づくがんの本態的な解明の飛躍的推進は、まさに悪性中皮腫があてはまるものです。また(3)革新的な予防法の開発における(1)環境中の発癌要因の同定と曝露情報の収集に、石綿(アスベスト)はあてはまるものだと思います。腫瘍マーカーの体系的探索も悪性中皮腫の課題であります。現在悪性中皮腫のマーカーとしてメゾテリンの研究が進行中です。(2)がんの有効な予防法の確立において環境要因としての石綿(アスベスト)の位置づけは喫煙同様、極めて重要です。(3)がん患者等の生活の質の向上も、悪性中皮腫の患者や家族にとって急務の課題です。本年2月アメリカFDAは悪性中皮腫の治療薬としてPemetrexedを認可しました。日本の悪性中皮腫患者から早期使用の期待が高まっている所です。

1)悪性中皮腫の治療薬の治験の審査は短期間で終了するよう急いでいただきたい。具体的にPemetrexed(アリムタ)の審査を急いで頂きたい。

2)「抗がん剤の併用療法に関する検討委員会」の検討項目に、悪性中皮腫の治療薬を含めていただきたい。

3)悪性中皮腫の治療薬は治験終了後より使用できるように、速やかに承認していただきたい。

4)悪性胸膜中皮腫および悪性腹膜中皮腫の治療方法について、予算を設定して重点的に研究していただきたいが、お考えをお聞かせ願いたい。

5)医療者との関係で満足していると答えた方は、親身な対応に満足しております。逆に不満足の場合は、治療への説明不足が挙げられています。医療従事者に対して、丁寧に治療内容を説明し当事者の不安を軽減するよう、抗がん剤の副作用を説明すること及び、得のうえ手術に臨むために手術の困難さと術後の体力状況を説明することを十分周知して頂きたい。以上のためにどの様な指導や医療関係者への指導の場が可能か、お答え頂きたい。

4.医療費の負担に関する項目

1)この病気を患ったことで必要となった費用は、月平均23.4万円で、医療費の負担は深刻とした方が62%を占めています。この理由は、大半が健康保険及び労災保険の適用外にある、民間薬の使用によるものです。治療法のない患者及び家族にとり切実な民間療法(内服及び免疫療法)に関する労災保険への治療の拡大についてお考えをお聞かせ下さい。

2)労災に認定され、既に支払った健康保険から労災保険に切り替える際に、自由診療として健康保険診療分を本人が一度立て替えるよう監督署や病院から求められ、入院治療費の数百万を一度に支払う負担で困惑した例が過去多数見られました。労災申請時に、健康保険組合に370万円返還するように監督署から求められた事例もあります。現在は、病院の配慮により支払いを考慮していただくことも増えていますが、本来通達等に従い運用上で解決すべき問題と考えます。この点に関するお考えを通達含めお聞かせ頂きたい。

3)地域の大学病院では悪性中皮腫に対応できず、大学の医師が近隣都道府県の病院へ紹介したため、遠方の医療機関へ通院せざるを得ない事例が多く見られます。

【事例】悪性中皮腫の化学療法で有名な病院が所在都道府県にないため、2時間かけて近隣都道府県に通院している。毎月交通費だけで16,931円かかり、長期間通院したので299,848円となる。

以上の様な場合に、特例として交通費の支給を認めて頂きたい。

4)労災保険での治療の拡大について、被災労働者の援護の観点から、健康保険より手厚い治療を望みたい。特に治験終了後の抗がん剤(具体的にはPemetrexed)の労災保険での使用について御検討を願いたい。

5)現在、職業によらない環境でのアスベストによる発症が知られています。また、アスベストと無関係の悪性胸膜中皮腫の発症も少数ながら知られています。このような方々の経済的負担も同様に深刻です。そこで、労災保険での対象にならない、環境曝露や事業主等の被災者の医療負担軽減のために、「悪性中皮腫」「石綿肺癌」の難病に準じた救済についてお考えをお聞かせ願いたい。

5.労災補償に関する項目

1)労働基準監督署での対応では、病気の進行が極めて早いのに、手続きが迅速に行われていない場合があります。本人しか職場の実態を知らないのに担当者が病院に急いで訪問せずに、本人から聴取する機会を永久に失った事例も散見されています。また監督署の労災保険の担当者が1-2年で移動する場合が多く、4月以降の後任者に引き継ぎが不十分で数時間かけて説明しなおしたとの事例もあります。この様に担当者の対応が不十分な場合には、申請者はどのような対応を行えば良いのかお示し頂きたい。

2) 国立癌センター及び都道府県立癌センター等の中皮腫の治療にあたる事の多い公的医療機関で、労災保険の指定医療機関になっていないために、患者や家族に経済的負担をしいる事例がみられます。そこで、国・都道府県・自治体立医療機関に、労災保険の指定を受ける様に働きかけて頂きたい。

3)中皮腫および肺がんと診断された時「労働災害」「認定」の言葉を知らなかった方が57%認められています。また、中皮腫の診断時に、医師から病気について職業との因果関係を尋ねられた方が75%以上いるにもかかわらず、労災保険の適用についての説明は40%以下となっています。悪性中皮腫や石綿(アスベスト)肺がんを扱うことの多い医療機関に対して、医療機関での労災情報が、患者や家族を救済する第一歩となることを周知させていただきたい。具体的には、悪性中皮腫や肺癌の治療に携わっている医療機関が外来に張り出せるように、「悪性中皮腫の多くは仕事による石綿(アスベスト)曝露が原因です。肺癌の方にも石綿(アスベスト)が原因の方もいます。仕事による悪性中皮腫や肺癌の方は、労災保険で治療や休業補償を受けて下さい。」というポスターを作成配布して頂きたいが、お考えをお聞かせ願いたい。

4)現在の石綿関連疾患の認定基準について、胸膜肥厚斑及び石綿小体は要件でなく、曝露歴のみでも本省協議で認定される事になっていますが、監督署の担当者レベル等ではそのようにいかない例が認められます。

【事例】C氏のケース:二つの医大で病理学的に「間違いなく悪性中皮腫」とされる。石綿工場への運送で3年働いていた期間の暴露と思われるが、胸膜肥厚斑がなく石綿小体の確認が出来ないので、認定できないとされる事例がある。本人は抗がん剤も打ち徐々に悪化しているので、生前に認定を報告したいと家族は必死である。

 こうしたケースをどの様にお考えかお聞かせ下さい。

6.既存石綿(アスベスト)対策について

1)石綿(アスベスト)の飛散を実質的に防止する対策を進めるような、調査及び研究を行う事に関するお考えをお聞かせ願いたい。

2)既存の石綿(アスベスト)対策として次のような要求がありますが、お考えをお聞かせ頂きたい。

  • 労働基準監督署の建築物解体・改築現場へは、抜き打ち検査を実施して頂きたい。
  • 解体・改築業者や解体・改築の施主への安全対策を徹底と指導して頂きたい。

なお要望に対する回答と、それを巡る交渉の詳細はこちらを御覧下さい。

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