中皮腫治療—第12回世界中皮腫会議の報告

 2014年10月21日~24日に、南アフリカ共和国のケープタウンで、第12回世界中皮腫会議が開催されました。

 ケープタウンは、アフリカ大陸の南端に位置する人口374万人の大都市で、立法府の首都です。ちなみに、行政府と司法府の首都は各々別に有ります。羽田空港からシンガポールとヨハネスブルグを経由し、ケープタウンまで約24時間の長旅でした。オランダやイギリスの植民地であった時代もあり、街並み(写真1)はヨーロッパの雰囲気が漂っています。

写真1

 ケープタウンの象徴的な存在で、観光のハイライトでもある標高約千mのテーブル・マウンテン(写真2)からの景色(写真3)は素晴らしいです。

写真2

写真3

 世界の保養地と言われる華やかで美しい地域(写真4)とともに、アパルトヘイト(人種隔離政策)の影響も色濃く残っていました。隔離されていた地域(写真5)には、今日も多数の人々が住んでいて、悲惨です。共用の簡易トイレや水道が屋外にあり、蛇口からお湯は出ませんでした。風呂はなく、バケツの水を頭からかぶると言っていました。

写真4

写真5

 世界初の心臓移植が、1967年に行われたGrooteSchuur 病院(写真6)を訪問しました。ケープタウンの人々にとっては、世界初の心臓移植が大きな誇りのようでした。有名な喜望峰(写真7)に、数時間のドライブで行けます。大西洋とインド洋の雄大な景色を一望に見ることができ、感慨深かったです。

写真6

写真7

 南アフリカは、世界有数のアスベスト産出国でした。毒性の強い青石綿が、大量に採掘されました。1960年には、南アフリカでの胸膜中皮腫とアスベスト曝露との関連性を指摘する論文1)をWagner らが発表しました。しかし、その後もアスベストの生産が続きました。したがって、南アフリカには、石綿が原因の中皮腫や肺がんなどの患者さんが多数おられます。第12回の世界中皮腫会議は、このような背景のある南アフリカのケープタウン国際会議場(写真8)で開催されました。

写真8

 学会中に重要な点を記録した私のノートから、世界中皮腫会議の報告を項目ごとに致します。

  1. 薬物療法は、現在もシスプラチン(またはカルボプラチン)とアリムタの組み合わせが第一選択です。第一選択に次ぐ薬物療法は、定まっていません。手術を行う場合は、「 手術前の薬物療法よりも手術後の薬物療法のほうが望ましい」という意見が増えていました。
  2. 免疫療法が注目されていて、研究が進んでいます。しかし、中皮腫の患者さんでは、まだ科学的に効果が証明されていません。実用化が待たれます。
  3. 遺伝子も盛んに研究されています。治療が有効な患者群の確認のために、遺伝子が役立つのではないかと検討中です。
  4. オーストラリアでの中皮腫登録制度が、2010年から始まりました。石綿曝露の情報を収集しています。まず、郵便での質問を行い、次に電話で質問するそうです。2011年に663例、2012年に652例の新たに診断された患者が登録されました。80%が65歳以上、81%が男性、94%が胸膜中皮腫、47%が上皮型、61%が職業曝露でした。日本でも中皮腫の登録制度が、強く望まれます。
  5. 手術方法について、胸膜外肺全摘術と胸膜切除剥皮術のどちらを選択するべきかの議論が行われました。胸膜外肺全摘術のほうが、悪性細胞の減量効果は高いです。しかし、肺を摘出するので、術後の呼吸機能の低下は大きく、合併症が胸膜切除剥皮術よりも多いです。胸膜切除剥皮術は肺を摘出しないので、高齢者や心肺機能が障害されている症例にも実施可能です。近年、主に胸膜切除剥皮術を実施している施設は、成績の良い上皮型を中心に行っている場合が多く、見かけの治療成績が良くなっています。しかし、2012年に発表された世界的な中皮腫データベース2)によると、Ⅰ期に対する胸膜外肺全摘術(75人)と胸膜切除剥皮術(57人)の生存期間中央値は40カ月と23カ月であり、明らかに胸膜外肺全摘術が良いです。中皮腫の進行程度や全身状態を考慮して、各症例に適した術式を選択すべきだと理解しました。
  6. 私は、山口宇部医療センターでの「胸膜中皮腫に対する胸膜外肺全摘術と放射線療法と抗癌剤治療を組み合わせた治療方法の成績」を報告(写真9)しました。

写真9

 患者さんの健康回復とご家族の安心を心からお祈り申し上げます。

(相談役 山口宇部医療センター呼吸器外科 岡部和倫)

(第105号 2015年2月掲載)

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