(12) 中皮腫のセカンド・オピニオン(2)

 2005~2011年の間に、ひまわり診療所を受診された胸膜中皮腫患者さんとご家族の85名を中心にして合計90名の胸膜中皮腫の男性68名、女性22名について、治療方法と相談に見えた時期、主な相談内容を検討した結果が以下です。

 90名の年齢は30歳から85歳で平均年齢は64・1歳、上皮型42名、二相型14名、肉腫型16名、組織亜型不明18名で、IMIGのステージは不明が多く、ステージ1は0名でした。外科治療を受けた人が27名いらして、内訳は肺胸膜全摘出術21名、胸膜剥離術他が6名でした。化学療法を受けた人は51名いて、アリムタの保険適用以前の時期の方がいるためシスプラチンとアリムタが16名、ジェムザール(シスプラチン+ジェム等)が24名、その他が11名でした。手術も抗がん剤も行わず緩和ケア+免疫療法のみを選ばれた方が18名いる点、米国型でなく英国型の中皮腫の医療の実情と近い部分が見られました。

 胸膜中皮腫の方が受診された時期を検討すると、1)診断と初回の治療の選択に悩む「診断・初回治療期」、2)第1に選択された治療(手術や抗がん剤)がうまく行かず第2の治療の選択をどうしようか悩む「第2治療選択期(初回治療で進行が認められてから第2治療の開始と進行まで)」、3)病状が進行し様々な苦悩を抱える「病状進行期(第2の治療でも病状の進行があり酸素導入まで)」、4)「終末期(酸素導入・酸素量急増~末期)」、5)「ご遺族の悲嘆期(グリーフケア期)」と、患者さんや家族が悩む点で5つの臨床時期が日本にはあるかと思われます。

 どの臨床時期にどの内容の相談が多かったのか、それぞれの時期に患者さんと家族が抱える「痛み」を、身体、心理、社会、スピリチュアルの4つの痛みがあるとされる緩和ケアの考え方で整理してみたのが次です。

 「診断・初回治療期」の受診は32名で、主な相談内容は"治療方法の選択"と"心理的なパニックへの対応"、"不眠・うつ状態の開始"等が主でした。

 「第2治療期」の受診は43名で、主な相談内容は"第2の治療方法の選択"、"4つの痛みに関する様々な相談"が主でした。

 「症状進行期(第2の治療でも病状の進行があり酸素導入まで)」は合計27名で、主な相談内容は"これまでの未解決の問題"で様々な痛みが重層化していることがうかがわれました。

 「終末期(酸素導入・酸素量急増~末期)」の相談は21名、永眠後にご遺族のみの相談が30名でした。

 「診断・初回治療期」の患者さんの心理は、過去の石綿との関わりの有無と共に、石綿関連疾患の知識の多少で大きく差が出るようです。"突然、何が起きた?"と感じた患者さんは15名で、製造業(類似例少ない研究職等)、建設業、女性、環境や建物ばく露による場合が多かったです。一方、"中皮腫は知っていたけれど、なぜ私に??"と感じた方は14名で、造船業・建設業・類似例のある製造業に多く、"とうとう起きた!"と感じた方3名は、吹付け石綿業、石綿製造業、造船業でした。

 「診断・初回治療期の痛み」では、身体の痛みはこの時期にはまだ少ないものの、中皮腫の予後の短さと治療困難を知り、心理的な痛みが生じます。また、石綿と病気の関連・過去の会社や同僚と関係する億劫さ・家族内部の混乱・経済的問題などから社会的な痛みも負担となります。そして、人生の意味や自分の存在を問うスピリチュアルな痛みが突然始まります。さらに、これらの痛みから、不眠やうつ状態が引き起こされると考えられます。

 「第2治療選択期」の主な相談内容は、"第2の治療をどうするかの相談"、人生の諸問題と各種痛みへの対応、石綿との関連、家族間の様々な調整、が寄せられました。90名が最終的に選択した第2の治療は、手術された患者さんでは初回化学療法の選択が17名でした。セカンドライン(2番目の)化学療法が9名、放射線温熱療法等が2名、緩和的治療(免疫療法含む)が15名、不明が40名でした。

 第2治療選択期では心理的痛みが進展し、予後の短さ、治療困難、不眠、うつ状態他が出現、社会的痛みとしては過去の会社と折衝、家族との軋轢、経済的問題、監督署および環境再生保全機構への申請関連等があり、身体的痛みも出現する人が多く、痛みが解決せず重層化する点が胸膜中皮腫患者さんと家族の大変つらい点で、スピリチュアルな痛みが増大し全体の痛みが改善せず増大していました。

 「症状進行期」と「終末期」の痛みでは、心理的痛みが進展、終末の予感、治療への諦めと期待、不眠・うつ状態他、社会的痛みでは家族関係での未解決問題、経済問題、監督署および再生保全機構への申請関連等、身体的痛みは増悪、スピリチュアルな痛みが増大し、全体の痛みは改善せず増大していました。

 90名のうち診断~永眠まで経過の詳細を把握した方21名について、診療記録を基に臨床病期と経過、生活の質について検討しました。生活面の臨床経過では、酸素吸入から永眠までは1日から9月で平均2・6ヶ月、麻薬の使用から永眠までの期間は無から12ヶ月で平均4・8ヶ月、最後の外出から永眠までは4日から60日で平均30・6日、最後の食事から永眠までは1日~5日で平均3日、最後の会話から永眠までは1日~4日で平均2日、診断から永眠までの期間は2ヶ月(手術関連死)から60か月で平均19・8ヶ月でした。

胸膜中皮腫の臨床病期と生活の質 モデル図(名取、2011)

 胸膜中皮腫患者さんは、肺と心臓は機能が制限されますが、脳や食道は最後まで機能が保たれる方が多いので、永眠直前まで食べ、話し、外出され、痛み止めで身体的痛みはかなりコントロールされていることも判明しています。以上から胸膜中皮腫の方の生活の質と臨床的経過(病期)は、各期の長さ等の個人差はありますが、次の図のような経緯をとる場合が多いと考えられます。なお、術後10年間お元気の方も何名も経験していますので、あくまでも図は平均的な像と受止めてください。次回は、中皮腫のセカンド・オピニオン外来から見て、今後望まれる医療・看護職の中皮腫患者への対応、その他について、最後に述べる予定です。

(第95号2014年3月)

< 前のページ | 次のページ >

Copyright © 2004-2016 JAMARDVF. All rights reserved.