(10) 胸膜中皮腫に対する放射線治療について

 胸膜中皮腫は、他の悪性腫瘍と同様に外科手術・化学療法・放射線治療の組み合わせで治療されています。さらに本邦でも胸膜中皮腫の症例は少数ですが、組織型は多様で、根治手術が困難な場合も多く、現在でも治療法は確立されていない状況と思われます。

 胸膜中皮腫は症状に乏しく発見時には患側胸腔に広がっていることが多く、根治手術が可能な初期の中皮腫でも微小な病変の残存が考えられ、術後の補助療法が局所再発のコントロールにおいて重要です。そこで重要なのが、術後の補助療法としての放射線治療と化学療法です。化学療法については以前取り上げられていますので、ここでは放射線治療について述べます。

~現在までの放射線治療~

 まずよく行われているのが、術後の補助療法としての放射線治療です。比較的初期(Ⅰ-Ⅲ期)の遠隔転移のない、根治手術(胸膜外肺全摘術など)後の症例で放射線治療が施行されます。部位的には術後患側の胸膜術後部に対して放射線(X線、電子線など)の照射を行います。この場合の放射線治療の役割は肉眼レベルで外科切除したのちの、残存が疑われる顕微鏡レベルの中皮腫細胞を制御する意味合いと考えられます。

 また局所進行例で根治手術困難または遠隔転移、再発が見られた場合にも放射線治療を行う場合があります。これが緩和的な放射線治療です。胸膜中皮腫は局所浸潤性が強い腫瘍ですので、骨や筋肉・皮膚などに浸潤した場合、それに伴う疼痛が出現します。術後補助放射線治療とは異なり、根治性には乏しいのですが、疼痛部に対して放射線治療をすることにより、腫瘍の縮小、それに伴う疼痛の軽減が期待できます。腫瘍サイズにもよりますが、多くの状態で適応があります。

 このように胸膜中皮腫のいずれの病期(手術可能~手術困難、再発例)でも、放射線治療は有効な治療法の一つとなり得ますので、専門医のいる病院での診察・治療をお勧めします。

~これからの放射線治療 IMRT~

 実は放射線治療を施行する際の最大の問題点は、それに伴う有害事象(治療中の副作用・治療後の晩期障害)です。胸膜中皮腫の放射線治療は術後照射で特に治療範囲が大きくなることが多く、症例によっては50cm(縦)×25cm(横)ほどになることもあり、ほぼ体幹の半分といっていいと思われます。その部位に従来の方法ですとX線と電子線を組み合わせる方法で治療を行うわけですが、内部の心臓や肝臓、腎臓、胃や小腸などの正常な消化管に放射線が照射されるために全身倦怠感や食欲不振、貧血や免疫力低下などの骨髄抑制、心臓や肝臓機能の障害が起こり得ます。このような副作用を軽減するためには放射線の線量を下げればよいのですが、再発のリスクも上昇するため、ジレンマとなっています。

 IMRT(強度変調放射線治療)はこのジレンマを解消する可能性があります。IMRTとは、最新のテクノロジーを用いて照射野内の放射線の強度を変化(変調)させて照射を行なう方法のことを指します。IMRTを使えば、がんの形に凹凸があってもその形に合わせた線量分布が作ることができ、線量を維持しながら副作用の軽減が期待できます。日本でも2000年頃より開始され、前立腺がんや頭頸部がん、それ以外のがんにも適応が広がっています。

 胸膜中皮腫に対するIMRTはまだ試験的なレベルですが、副作用や合併症を抑えつつ、高線量を処方できる可能性があります。全国でも数施設しか行っていないのが現状ですが、今後症例蓄積していけば、標準治療になる可能性があります。

(第93号2014年1月)

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