(7) 胸膜中皮腫の抗がん剤による標準治療法について

 今回、胸膜中皮腫の抗がん剤による標準的治療法についてご説明したいと思います。その前に「抗がん剤による標準的治療法」ということばについて少しご説明します。標準的治療法とは、多くの施設で一般的に行われている治療法という意味です。臨床試験によってすぐれていると確認された治療法が標準的治療法として採用されています。

 ところが、抗がん剤は副作用や合併症を伴う可能性のある治療法です。臨床試験は治療薬の違いによる治療効果の差をみるものですので、副作用の出やすい患者さんやすでに重篤な合併症のある患者さんは臨床試験に参加していません。そのような患者さんが多数含まれていると、治療そのものが悪いのか、患者さん特有の問題なのか区別しにくくなるからです。全身状態や病気の進行度などの条件をそろえてはじめて科学的にすぐれているのかどうかがわかるのです。

 現在、胸膜中皮腫の標準的治療法として行われているのは、シスプラチンとペメトレキセド(商品名:アリムタ)という2種類の薬を組み合わせた治療です。シスプラチンは、白金を含んだ抗がん剤でたくさんの悪性腫瘍に治療薬として用いられ、腎障害、吐き気・嘔吐が主な副作用です。ペメトレキセドは、代謝拮抗剤のひとつでがん細胞が分裂・増殖する際に、核酸の材料となる物質と科学的構造が似ている物質でDNAの合成を妨げ、がん細胞の代謝を阻害して、増殖を抑制する抗がん剤です。2剤を組み合わせ3週間に1回点滴で治療が行われこれを繰り返します。

 この治療の主な副作用は、白血球減少や吐き気・嘔吐がほとんどの人に現れます。いずれも重症化して、感染症や重度の下痢を起こすことがあるので注意が必要です。一般的な副作用としては、脱毛や口内炎、倦怠感、発疹やかゆみなどがみられます。ただし、脱毛は肺癌に対して使用される他の薬よりは一般的にごく軽度です。吐き気・嘔吐に対しては吐き気止めの開発で以前よりは楽になっていますが、個人差も大きく患者さんにとって苦痛な副作用のひとつです。

 重大な副作用としては、薬剤性間質性肺炎や腎不全の報告もあります。薬剤性間質性肺炎が起こる頻度は数パーセントですが、適切な治療が行われないと非常に重篤な状態となります。治療中は息切れ、せき、発熱に注意が必要です。

 また、この治療法の特徴として副作用を軽くするため葉酸、ビタミンB12が投与されます。葉酸は内服で1日1回、治療中は毎日続ける必要があります。ビタミンB12は筋肉注射で9週間に1回行います。いずれも最初の治療を行うときはその治療開始1週間前から行う必要があります。

 実際の治療は標準治療にもとづいて行われますが、予定通りに行えるとは限りません。実際の患者さんは合併症があったり、副作用が出やすいかもしれません。

 胸膜中皮腫の場合、抗がん剤治療は病気を治しきる治療法ではなく、病気はあるけれど進行を抑えて少しでもいい状態を長続きするための治療法です。患者さん自身がその治療法とつきあっていけるかどうかも大切な問題です。ところが治療の効果も副作用も前もって正確に予測することはできず、治療をおこなってみないとわかりません。

(第90号2013年10月)

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