(5) 本当に手術できませんか?

 2013年に発表された国際中皮腫会議(IMIG)のガイドラインによると、胸膜中皮腫の治療は、「手術が可能ならば、手術が望ましい」とされています。しかし、「手術が可能か否か」の判断は、外科医の技術や知識に左右されます。高いレベルの手術技術と十分な知識を持ち合わせている外科医であれば、手術可能な患者さんの範囲が広いです。

 患者さんやご家族には、経験豊富な呼吸器外科医を受診されることを強くお勧め致します。セカンドオピニオンという他の医師の判断を聞く制度も有りますから、胸膜中皮腫の診療経験が豊富な医師を受診して下さい。セカンドオピニオンは既に全国に普及していますので、気軽に中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会、医師、看護師、病院の医療相談室に尋ねて下さい。

 胸膜中皮腫の治療方針の判断には、少し混乱が生じています。その一因は、イギリスで行われたマーズ研究(MARS STUDY)が、2011年に発表されたからです。彼らは、「胸膜中皮腫に対する手術は、恩恵が無く患者さんを傷つける」と主張しました。しかし、発表直後から痛烈な批判を浴び、「マーズ研究の結論は、データに支持されていない」との意見が発表されました。胸膜中皮腫の治療に詳しい医師達は、マーズ研究には大反対です。私も、マーズ研究には大反対です。

 ところが、マーズ研究を鵜呑みにしてしまっている胸膜中皮腫の治療に詳しくない医師がおられます。このような医師は、胸膜中皮腫の患者さんに手術を勧めません。結果として、患者さんは最も期待できる治療を受ける機会を失ってしまいます。患者さんやご家族には、経験豊富な呼吸器外科医を受診されることを強くお勧め致します。

 国際中皮腫会議のガイドラインに述べられているマーズ研究の欠点(1~8)を列記します。少し難しいかもしれませんが、最後まで読んで下さい。

  1. マーズ研究は、胸膜中皮腫の患者さんを手術群か非手術群に無作為に割り当てることの可能性を検討するようにデザインされていましたが、否定されました。
  2. 患者さんの生存率も分析されましたが、比較に必要な患者数の10%以下の患者さんしか検討されませんでした。
  3. 研究が、適切に実施されませんでした。非手術群の26患者中、6人が手術を受けました。手術群の24患者中、16人だけが実際に手術を受けました。
  4. 手術の質の管理が、報告されていません。
  5. 手術の合併症率(69%)と術死率(19%)が非常に高いです。
  6. 化学療法の内容が、管理されていません。
  7. 手術を受けた患者さんの組織型(上皮型・肉腫型・二相型)や病期(1期・2期・3期・4期)が、記載されていません。
  8. 化学療法だけを受けた非手術群の生存期間中央値が19カ月であり、異例に長いです。
    国際中皮腫会議のガイドラインは、「これらの欠点(1~8)のために、マーズ研究から手術の効果に関する結論を導くことは不可能」と述べています。

 胸膜中皮腫の治療は、「手術が可能ならば、手術が望ましい」とされています。しかし、「手術が可能か否か」の判断は難しいとされていますので、経験豊富な呼吸器外科医を受診されることを強くお勧め致します。患者さんの健康回復とご家族の安心を心からお祈り申し上げます。

岡部氏写真

(第88号2013年7月掲載)

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