(2) 胸膜中皮腫の手術方法

 胸膜中皮腫の治療は、「手術が可能ならば、手術が望ましい」とされています。私は、日本の外科医では胸膜中皮腫の手術を最も多く経験していると思います。アメリカ医師試験にも合格したうえで、胸膜中皮腫の手術数が世界中で最も多いハーバード大学の教育病院で働いていたからです。世界ナンバーワンの病院で身に付けた胸膜中皮腫の手術方法をご紹介します。胸膜中皮腫を治療するための手術は2種類あります。

 「胸膜外肺全摘術」と「胸膜切除剥皮術」です。胸膜外肺全摘術について詳しくご説明した後、胸膜切除剥皮術についても述べます。

 手術の解説のために必要なので、まず胸部の構造を簡単に説明します(図1)。胸部の表面は皮膚で覆われていて、皮膚の下には脂肪や筋肉があります。脂肪や筋肉の内側には、肋骨・肩甲骨・背骨などの骨があります。骨や筋肉が胸郭を造っています。胸郭の中には、心臓・左右の肺・食道や大きな血管などの重要な臓器があります。肺と心臓は、肺動脈と肺静脈で結ばれています。肺には、気管や左右の気管支を通って空気が出入りしています。心臓は、心膜という袋の中で拍動しています。胸部と腹部の間には、筋肉でできた横隔膜があります。

 「胸膜」について説明します(図1)。胸膜は、壁側と臓側の2種類があります。壁側胸膜は、骨や筋肉で形作られている胸郭の内張りです。心膜の表面や横隔膜の表面にも壁側胸膜が存在しています。臓側胸膜は、肺の表面を覆っている膜です。胸膜中皮腫は、壁側胸膜から発生し、容易に壁側胸膜や臓側胸膜に広く進展するとされています。

図1:前胸壁を取り除いた胸郭内臓器

 いよいよ手術の解説です。胸膜外肺全摘術は、手術する側(右か左)を上にした横向きの姿勢で行います。

  1. 皮膚切開(皮膚の切り方)から第6肋骨切除
    皮膚の切り方は、肩甲骨と背骨の間から肩甲骨の足側を通る第6肋骨に沿った長い切開をメスで行います。切開した皮膚の深部にある脂肪や筋肉を電気メスで切離します。第6肋骨をほぼ全長にわたり切除します。
  2. 壁側胸膜外の剥離(はがすこと)
    第6肋骨を切除した場所から壁側胸膜の外側の剥離を始めます。壁側胸膜の破損に注意しながら、頭側・前方・後方・足側の順に行います。主として手で壁側胸膜の外側の剥離をしますが、電気メスやハサミを要する部分もあります。
  3. 横隔膜切除
    横隔膜の筋肉の胸壁への付着部を電気メスで切離します。横隔膜の腹側にある腹膜を横隔膜の筋肉から剥がします。体のほぼ中央で、横隔膜を切離して病気の側(右か左)の横隔膜を切除します。
  4. 心膜切除
    心臓が入っている袋の心膜をハサミで切開し、病気の側(右か左)の心膜を電気メスで切除します。
  5. 肺血管・気管支切離
    肺と心臓をつないでいる肺静脈(2本)と肺動脈(1本)を自動縫合器で切離します。気管支を自動縫合器とメスで切離すると、壁側胸膜・横隔膜・心膜・肺と臓側胸膜を摘出できます。リンパ節を取り除きます。
  6. 横隔膜の再建
    横隔膜の再建には、ゴアテックス製の人工膜(厚さ1mm)を用います。横隔膜の断端や胸壁の肋骨や筋肉に人工膜を縫い付けます。
  7. 心膜の再建
    心膜の再建には、ゴアテックス製の人工膜(厚さ0・1mm)を用います。心膜の断端に人工膜を縫い付けます。
  8. 手術終了
    胸腔内を食塩水で十分に洗浄します。出血が無いことを確認します。肋骨や筋肉で作られている胸郭を修復して、皮膚を縫い合わせます。太さ7mmほどの管(ドレーン)を1本、体外から胸郭内に挿入しておきます。この管から血液や浸出液が体の外へ出てきます。

図2:胸膜外肺全摘術の摘出標本

 胸膜切除剥皮術は、壁側胸膜と臓側胸膜を取り除く手術で、肺は摘出しません。上記の胸膜外肺全摘術における「1・皮膚切開から第6肋骨切除」と「2・壁側胸膜外の剥離」をまず行います。その後、剥離した壁側胸膜を切って、壁側胸膜の内側に存在する肺を露出します。肺の表面の臓側胸膜を剥がします。剥離した壁側胸膜と臓側胸膜を切除します。時には、横隔膜や心膜の一部を切除します。リンパ節を取り除きます。最後に、上記の胸膜外肺全摘術における「8・手術終了」を行います。胸膜切除剥皮術では、太さ7mmほどの管(ドレーン)を2本、体外から胸郭内に挿入する場合が多いです。

 胸膜中皮腫の手術は難しい手術とされていますので、経験豊富な呼吸器外科医を受診されることを強くお勧め致します。患者さんの健康回復とご家族の安心を心からお祈り申し上げます。

(第85号2013年4月掲載)

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