アスベスト(石綿)健康被害に係るすき間のない救済を求める要望書を提出(2026年4月23日)
公開日:2026年4月24日
2026年4月23日付で以下の要望書を関係省庁に送付しました。以下の要望事項につきまして、5月20日にWEB会合での意見交換の場で回答を頂く機会を予定しています。
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2026年4月23日
環境大臣 石原宏高 殿
厚生労働大臣 上野賢一郎 殿
総務大臣 林 芳正 殿
中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会
会長 小菅千恵子
アスベスト石綿健康被害に係るすき間のない救済を求める要望書
アスベスト健康被害をとりまく諸制度に関して、「被害者が適切な医療と補償を受けられる社会」を実現するため、下記の通り速やかな検討と具体的措置を要望します。
1 利益相反による不公正な行政運営の排除(環境省、厚労省)
①被災者の各種制度における認定・不認定に直結、ないしは間接的に直結する議題が含まれる国が主催する審議会や検討会・委員会等の各種会議(委嘱を含む)に、アスベスト被害者が損害賠償請求等を行った被告企業の証人、あるいは被告側の意見書作成に協力した研究者を参加させることは明らかな利益相反です。過去5年間程度を目安に、アスベスト健康被害をめぐる民事裁判に証人等で参加していないかの事実確認を徹底し、金品の授受があった場合はその事実を速やかに報告させ、公表してください。金品の受領以降の審査等において申請者等に不利益があった事案について再審査してください。
2 アスベスト被害者の給付格差をなくす取り組み(環境省、厚労省)
労災と救済給付の給付水準や給付体系には大きな格差があります。制度の違いにより補償・救済額や支援の内容が大きく異なり被害者間に著しい不公平が生じています。治療費や交通費の自己負担増によって経済的困難に直面し、生活が困窮するなどのケースも生じています。救済給付を労災と同等の給付水準への見直しが求められます。
前回の石綿健康被害救済小委員会では、私たちが主張していた物価上昇を考慮した見直しについて取りまとめ報告では一切の言及もされなかったにもかかわらず、「経済財政運営と改革の基本方針2025」が2025年6月13日に閣議決定されたことを理由に石綿健康被害救済制度の療養手当等の見直しを図ました。このような経過自体、石原環境大臣が国会答弁で述べた「真摯に寄り添う」姿勢に反しています。加えて、見直しが療養手当等の一部に限定されたことは極めて不当です。
2022年6月17日に公布・施行された改正石綿健康被害救済法では、附則において施行後5年以内の見直しを規定しています。
①石綿健康被害救済制度における、「特別遺族弔慰金」(280万円)と「救済給付調整金」(基準額280万円)の給付額について、今回の療養手当等の引き上げ割合と同水準の見直しを速やかに実施してください。2026年4月10日の衆議院環境委員会で環境省環境保健部長は「経済的負担の直接的な軽減を目的とした給付を対象」にしている一方で、上記の給付は「お見舞い金」である性格を踏まえて、ただちに給付水準を改訂する予定はないとの答弁をしました。しかし石綿健康被害救済法の逐条解説には、特別遺族弔慰金について「含まれ得る要素としては、例えば、被害者本人又はその遺族が負担したと考えられる医療費や療養に係る諸経費を勘案している」と記載されています。救済給付調整金についても「不公平感の解消を目的」と記載されています。同部長は、「今後も制度をとりまく状況の変化を注視」するとの見解を示されましたが、仮に環境省の主張を前提とした場合、どのような状況の変化が生じた場合に見直しするのか明確にしてください。
②2023年6月に取りまとめられた「石綿健康被害救済制度の施行状況及び今後の方向性について」(以下、小委員会報告)では、今後も「必要な調査を実施」し、制度をとりまく状況を注視する旨の記載がされています。この点、2023年6月27日の石綿健康被害救済小委員会において浅野直人委員長は「何が必要かということはその都度その都度出てくる」、「何が必要な調査であるかということについては、相当幅広に考えることができる」と発言しています。療養手当の見直しは本質的に制度の運営の根幹であるにもかかわらず、小委員会も開かれていません。小委員会での議論を速やかに開始し、「特別遺族弔慰金」と「救済給付調整金」の給付額見直しを早急に判断した上で、療養手当を含む給付額の抜本的見直し、居住地などに考慮した交通費などの支給、遺族給付の創設を検討してください。加えて、救済給付調整金の算定に医療費を含むことの運用をやめてください。さらに、労災認定等ののち、当該被災者の療養中の休業補償が時効等で支給されない場合に救済給付調整金や特別遺族弔慰金の返還を求めないでください。
③石綿健康被害救済基金は特定の4社に限定し、わずかに上乗せの拠出をさせています。これら以外にも、民事訴訟でアスベスト健康被害発生の責任が認定されている会社が多数出ています。拠出のあり方について見直すとともに、これら企業から拠出させて「治療研究推進」と②で記載した新規給付のための財源をつくってください。
3 「中皮腫を治せる病気にする」ことを含めたアスベスト疾患の治療・研究開発の促進(環境省、厚労省)
「中皮腫を治せる病気にする」ための国の研究支援が不十分です。その他のアスベスト疾患も抜本的に治療研究の支援を見直す必要があります。国の支援の乏しさが治療の選択肢の乏しさにつながっています。環境省が管理している石綿健康被害救済基金においては約750億円の残高があるにもかかわらず、その一部を治療研究の支援に一切活用していません。
厚生労働省では労災疾病臨床研究事業費補助金の予算を増額し、年間で約1億円の研究支援にあてていますが、「中皮腫を治せる病気にする」ためにはまだまだ程遠い支援額です。国の責任が認められた、あるいは一定の責任を認めた肝炎やエイズ等の薬害事件の関係ではそれぞれ30億円以上の予算があてられています。
①厚生労働省と環境省は中皮腫をはじめとしたアスベスト疾患を治せる病気にするための治療戦略目標を打ち立ててください。
②石綿健康被害救済基金の一部を治療研究の支援へ活用してください。
③厚生労働省労働基準局労災管理課と補償課も治療研究に係る予算要求をしてください。
④現在、中皮腫に関する症例データは各医療機関で分散しており、全国的に統一されたレジストリとしては十分に機能しているとは言えない状況です。患者の利益につながるよう、医療関係者がリアルワールドデータにもとづいた治療選択を提示できる環境をつくってください。中皮腫登録の目的である a)治療法の向上 b)診療精度の向上 c)発症動向の把握 d)推計の活用、のそれぞれに対するこれまでの成果を示してください。特に、a)治療法の向上については具体的な成果を提示してください。そのうえで、前回の小委員会報告にある「中皮腫登録の更なる充実」の進捗について教えてください。
また、現状の治療法開発には臨床試験に使用可能なレジストリーと、そのもととなるリアルワールドデータの利用が必須です。今後の中皮腫登録は上記治療法開発研究に利用可能となるよう、治療法開発研究を行っているアカデミアの意見を取り入れて、治療法開発研究に資する登録の在り方やレジストリー構築へと改善してください。
4 石綿ばく露者の健康管理の体制構築(環境省、厚労省)
アスベストはあらゆる職業、地域で使用されてきました。しかし、石綿ばく露者の健康管理に関しては、厚労省の石綿健康管理手帳は一部の元労働者を対象としたものであり、環境省は「石綿読影の制度に係る調査」においてきわめて限定的な自治体を対象とした時限的な調査事業しか実施していません。これらにおいては建設業等における自営業者・一人親方等は必ずしも対象となりません。また建物などからの環境経由の石綿ばく露者も対象となっていません。直近では、能登半島地震に関連して被災地でアスベストが露出した環境でのボランティア作業などが確認され、健康不安が生じています。2025年12月には仙台労働基準監督署が、元化粧品販売員の業務上での石綿ばく露と中皮腫発症との関連性を認めて労災認定しています。
①元化粧品販売員に石綿健康管理手帳は発行されるのか明らかにしてください。
②化粧品を利用してきた一般消費者の健康管理のあり方について示してください。
③建設業等における自営業者・一人親方等、地域が限定されない建物ばく露やボランティア作業員等の環境経由の石綿ばく露者の健康管理をすき間なく実施するための検討の場を設置してください。自営業者・一人親方等への石綿健康管理手帳の交付、非職業性石綿ばく露者の全国統一的な健康管理制度を検討してください。
5 すき間のない補償・救済をはかるための取り組み(環境省、厚労省、総務省)
石綿健康被害者は労災制度や救済制度で補償・救済が図られていますが、「すき間のない救済」を徹底するために以下の事項について迅速にご対応ください。
①総務省は統計法を改正して、人口動態調査における「死亡小票」を石綿健康被害の救済に活用できるようにしてください。
②石綿健康被害救済制度における肺がんの認定者は中皮腫の1に対して0.15です(労災は0.73)。石綿健康被害救済基金の残高が積み上がっている原因にもなっています。判定基準が労災制度に対して厳格で、申請・認定が進んでいません。びまん性胸膜肥厚や石綿肺と同様に、肺がんの判定基準に「石綿ばく露歴」を取り入れ、労災相当の基準としてください。少なくとも、労災請求の調査において職業性ばく露歴が認められ、それにもとづいて労災認定基準を満たしている被災者については労災認定の有無を問わず救済制度において認定するように運用を見直してください。石綿肺とびまん性胸膜肥厚の申請者だけはばく露歴を判定基準に用いているのは不自然です。
③国際がん研究機関(IARC)をはじめ、国際機関において卵巣がん、喉頭がんとアスベストばく露の関連性が指摘されています。労災保険制度における認定疾病に追加してください。2024年7月5日に厚生労働省および環境省は「知見の収集に努める」と回答がありました。2025年5月30日の回答では厚生労働省から「令和5年度石綿による疾病に関する医学的知見の収集に係る調査研究」の実施等について説明がありました。環境省は「石綿健康被害救済制度に関する海外動向等調査業務報告書」などで知見を収集しています。これに関連して「Asbestos Exposure and Ovarian Cancer:A Meta-analysis」という2024年に発表されたアスベストばく露により卵巣がんの標準化死亡比70%増というメタアナリシス論文の評価を提示してください。また、認定疾病等の見直しスケジュールについて教えてください。
④治療上の有害事象(副作用等)の医療費負担について、医療機関から誤って自己負担にて支払いを指示される方がいます。治療前の治療上必要な歯科治療なども含め、対象疾病の発症および治療に伴う傷病が発生した場合も当該治療について給付の対象となることを厚労省と環境省は徹底して周知してください。千葉労災病院では「HbA1c」の検査について、検査の実施背景を一切考慮せずに費用を患者に保険負担させています。千葉労働局も「病院の判断」を理由に一切の指導をしません。厚労省と環境省は指導をしてください。また、石綿手帳には歯科治療を救済制度の支払いから除外する旨の記載が残っています。これは、根拠がなく、医療機関において誤解を誘引することとなるため、削除をしてください。
⑤公務災害では中皮腫のセカンドオピニオンの費用を支給しています。労災と石綿救済制度でも中皮腫の特殊性に鑑み、セカンドオピニオンの費用を支給してください。
⑥労災保険法改正法案の国会提出が予定されています。過去処分事案や審査中事案における平均賃金(給付基礎日額)や時効の訴求適用の運用方針について説明してください。
⑦石綿救済制度において中皮腫においては、確定診断時点で医療機関で申請の意思確認を本人にして、簡易な手続きで申請できるように負担軽減に向けて改善してください。加えて、労災では「同意書」においてCT等の医学的資料は労働基準監督署が収集します。救済制度は申請者による取得・提出が必須となっているので、労災と同じ対応をしてください。また、肺がんに係る医師証明の書類から【石綿が原因であることの根拠】の記載を削除するか、記載が必須でないことを明文化するなどの対応をしてください。2025年5月30日の回答で環境省は石綿健康被害救済法施行規則第一条について位置付けられていること、判定の際に審議会で確認していること、主治医等が記載してくれない場合は環境再生保全機構に相談する旨の回答がありました。しかし、労災の場合は請求時にそのような記載は求められません。加えて、審査において主治医の意見は何ら考慮されず(主治医の判断の尊重等はされず)判定されます。当会では主治医が根拠をかけないために書類がまとまらない旨の相談が絶えません。そのような意味で、このような記載を求めていることは単なる申請抑制につながっているだけで環境省が故意に被災者の申請を妨害しているだけです。速やかに改善してください。
⑧建設アスベスト給付金制度において、申請から2年や3年以上も審査がされずに放置されている異常な事態が続いています。その間に病状が進行するなど、被害者に深刻な不利益が生じています。過度な立証を求めずに、提出資料から一定の合理性が判断できるのであれば速やかに認定するなど、審査の長期化を解消してください。私たちに寄せられる相談では、担当者に連絡をしても審査にかけない具体的な説明がなく困惑しているという相談が多数あります。労災や石綿救済制度に準じて、申請ごとの処理期間等を記録して公開してください。審査の議事録も公開してください。
⑨建設アスベスト給付金制度に関連して情報提供サービスの提供が請求から3ヶ月以上しても何の回答もありません。担当者に問い合わせをしても理由の説明がありません。昨年、「丁寧な対応に努める」旨の回答がありましたが、回答内容と実態が乖離しています。また、労災認定事案について事業主や関係会社の不合理な主張をそのまま採用して「提供する情報なし」とする対応があります。被災者の職種などを考慮し、必要な場合は原処分庁の認識を確認するなどして柔軟に対応してください。労働者期間の問題で労災が不認定とされた事案も、自営業期間等に石綿ばく露が認められる事案は原処分庁の認識を確認して情報提供サービスで適切に情報を提供してください。
<事例1>
当該被災者は労働者として内装作業に従事。労働者期間はばく露が認められて業務上認定されたものの、自営業期間は元請業者の「アスベストはない」との主張が記録され、労災記録上もばく露なしとされた。労災請求段階から自営業期間も屋内作業での石綿ばく露の主張をしていた。
<事例2>
当該被災者は現場監督として建設現場や橋梁工事などに関わっていた。しかし、「申請者の石綿ばく露作業は、施工管理時の耐火被覆工事中の階の通過」を理由に提供情報なしとされた。被災者の主張でも、原処分庁の決定でもこのような一時的なばく露とは認識していない。
⑩環境再生保全機構は石綿健康被害救済制度の請求書等の提出書類を受理するにあたり、受理印を押印した提出文書すべての「控え」(コピー)を、請求人に返却していました。しかし2025年度の途中から、その扱いを変更する内部会議を行っていると説明し、上記の方法で提出文書の「控え」を受け取ることが出来なくなっています。上記の方法に代えて、①提出文書を示した「受領証」1枚を請求人に交付する、②提出文書すべての「控え」を求めるのであれば、請求人の身分証明書のコピーを付けた「依頼書」を提出させる、という代替方法が検討されている様です。この代替方法の取り扱いは、①万が一、環境再生保全機構が提出書類を紛失した際に、当該紛失書類の提出の有無が曖昧になってしまう点、②不必要な個人情報の提供であり不必要な労力を請求人に課すことになる点で、不当な取り扱いです。そもそも労働基準監督署含め他の行政機関で、この様な取り扱いをしている機関は聞いたこともなく、書類受理の方法としてまったく不当です。環境省は本件につき速やかに環境再生保全機構を指導し、従前の書類受理の方法に戻すようにして下さい。
6 地方公務員災害補償基金の審査業務見直し(総務省)
地方公務員災害補償基金は地方公務員を対象として業務上(公務上)災害に罹患した方の災害補償の審査業務を担っています。アスベスト関連疾患を問わず、ひろく問題が指摘されていますが、下記の事項について見直し等を要望します。
①審査業務を厚生労働省(労働基準監督署)に委託してください。現在、アスベスト疾患においては一人の医師だけで、年に4回の審査しかしていません。そのため、申請から決定までに労災保険制度と比較して非常に長期の時間を要しています。また、審査が一人の医師に委ねられており、これまでの審査事案からも独善的な判断が散見されます。労災認定基準に準じた判断をするとされているにも関わらず、勝手な解釈を用いて労災認定基準から逸脱した判断をしています。同じアスベスト被害者であるにも関わらず、このような審査体制の問題から公平な対応がされない事態は極めて深刻です。中皮腫の請求件数で言えばこれまでの201件の請求に対して認定が104件で約52パーセントの認定率しかありません。労災では約93パーセントと比べると明らかなに低いです。また、腹膜中皮腫は高濃度ばく露でないと発症しない等の労災の審査において用いられていない勝手な解釈を用いて審査を歪めています。医学的根拠をもとに、その理由を説明してください。中皮腫について言えば、ばく露の評価そのものを審査医の勝手な判断に委ねていることに問題があります。石綿肺などでは、都道府県労働局が決定した管理区分決定などを無視してその判断を否定するなどの決定があります。地方公務員災害補償法を改正して審査業務を厚生労働省へ委託してください。
②少なくともアスベスト疾患に係る公務外決定された事案では、審査請求においては都道府県支部審査会において原処分の判断を異なる視点で審査する医師が全くおらず、再審査請求においても原処分に関わった同じ医師が判断をします。すなわち、申し立て手続きが有名無実化していて全く意味がありません。過去10年において、アスベスト疾患事案において審査請求及び再審査請求で原処分が取り消された件数を明らかにするとともに、審査請求及び再審査請求業務も厚生労働省へ委託してください。