アスベスト石綿健康被害に係るすき間のない救済を求める要望書(2025年5月2日)
更新日:2025年5月27日
公開日:2025年5月7日
2025年5月2日付で以下の要望書を関係省庁に送付しました。以下の要望事項につきまして、5月30日に回答を頂く機会を予定しています。
PDF版はこちらからご確認ください。
______
2025年5月2日
環境大臣 浅尾慶一郎 様
厚生労働大臣 福岡 資麿 様
総務大臣 村上誠一郎 様
文部科学大臣 阿部俊子 様
中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会
会長 小菅千恵子
アスベスト石綿健康被害に係るすき間のない救済を求める要望書
アスベスト健康被害をとりまく諸制度に関して、下記の通り要望します。
なお、昨年2024年7月5日に行われた省庁交渉と同一の要望には、文末に※印を付記しました(一部、追記あり)。昨年の省庁交渉以降、行政としての実施事項と問題の解決進捗について、それぞれご回答ください。
1 被害者軽視の姿勢の是正と公平な行政運営(環境省、厚労省)
私たち患者・家族・被害者は、行政が患者・家族・被害者に向き合わず、その声を聴こうとせず、加えてその要望にも一切答えようとしない姿勢に、強い憤りと環境・厚生労働行政に対する大きな不信を感じております。
①これまでの姿勢をあらため、患者・家族の声を聞く努力をしてください。努力していく場合、具体的にその方法を示してください。※
②厚生労働省では現在、「労災保険制度の在り方に関する研究会」を開催しています。私たちは2月27日付で厚生労働省に要望書を提出し、当事者の意見が十分に反映されるように要望しましたが、提出した要望書が委員会資料として公開もされておらず、ヒアリングの相談もされておらず、要望書が届いた旨の連絡がありません。要望をどう取り扱い、どのように対応していくか回答ください。
③被災者の各種制度における認定・不認定に直結、ないしは間接的に直結する議題が含まれる国が主催する審議会や検討会・委員会等の各種会議に、アスベスト被害者が損害賠償請求等を行った被告企業の証人、あるいは被告側の意見書作成に協力した研究者を参加させることは明らかな利益相反です。参加させないことを徹底してください。
2 アスベスト被害者の給付格差をなくす取り組み(環境省、厚労省)
労災と救済給付の給付水準や給付体系には大きな格差があります。
2022年から2023年にかけて行われた環境省による石綿健康被害救済小委員会に置いては、当事者である健康被害者及びその関連団体の意見は何一つ取り入れられず、加えて厚生労働省の関与も全くないまま、その取りまとめは“健康被害救済”とは名ばかりのものとなりました。取りまとめの発表も、パブリックコメント募集を行わないばかりか、議事録の確認も行われないまま、誤りを含んだ取りまとめが最終会合日の翌日に発表されるという、当事者の意見を恣意的に封殺する運用がなされました。これは、当時の環境省石綿健康被害対策室長であった木内氏が、こののち引き起こした水俣病患者団体に対してのマイク切り事件と並んで、長い環境庁・環境省の歴史においても最大の汚点のひとつと言えるものです。また厚生労働行政においても、先の高額療養費改正法案の凍結の経緯を引くまでもなく、当事者の意見を十分聴取・勘案したうえでその行政執行にあたるべきことは言うまでもありません。今後の、石綿健康被害救済行政においては、現在各行政機関で当然の事として行われている、当事者意見の聴取とその反映が必須であることを再認識したうえで、その運営に当たるべきであることは自明です。
前回の石綿健康被害救済小委員会からすでに3年が過ぎようとしていることを踏まえると、今後の石綿健康被害救済小委員会の開催に向けた準備として、あるいは石綿健康被害救済行政を進めるうえでの当然の運営として、健康被害の当事者・関係者が何を考え、どのような意見を持っているか、どのような状態に置かれているかを把握するための、直接の意見交換・意見聴取を行う時期に来ています。このことこそが、これまでの当事者の意見を黙殺してきた石綿健康被害救済行政を改めることにつながります。当事者に寄り添うことのスタート地点は、当事者の意見を真摯に、かつ虚心坦懐に聴取して、行政運営に生かすことです。この点を反省・改善しない限り、石綿健康被害救済行政は、ひいては環境行政・厚生労働行政は、環境汚染による健康被害者を置きざりにしたという歴史の指弾にさらされ続けることを強く認識すべきです。
①近年の物価上昇、犯罪被害者等給付金改正の動きなど、社会環境の変化を踏まえてすき間と格差をなくす給付内容に見直すべく、早急に石綿健康被害救済小委員会を再開してください。2023年6月に取りまとめられた「石綿健康被害救済制度の施行状況及び今後の方向性について」では、今後も「必要な調査を実施」し、制度をとりまく状況を注視する旨の記載がされています。この点、2023年6月27日の石綿健康被害救済小委員会において浅野直人委員長は「何が必要かということはその都度その都度出てくる」、「何が必要な調査であるかということについては、相当幅広に考えることができる」と発言しています。※
②とりわけ、石綿健康被害救済制度における療養手当の給付額の見直し、居住地などに考慮した交通費などの支給、遺族給付の創設を検討してください。
3 「中皮腫を治せる病気にする」ことを含めたアスベスト疾患の治療・研究開発の促進(環境省、厚労省)
「中皮腫を治せる病気にする」ための国の研究支援が不十分です。その他のアスベスト疾患も抜本的に治療研究の支援を見直す必要があります。環境省が管理している石綿健康被害救済基金においては約750億円の残高があるにもかかわらず、その一部を治療研究の支援に一切活用していません。
厚生労働省では労災疾病臨床研究事業費補助金の予算を増額し、年間で約1億円の研究支援にあてていますが、「中皮腫を治せる病気にする」ためにはまだまだ程遠い支援額です。国の責任が認められた、あるいは一定の責任を認めた肝炎やエイズ等の薬害事件の関係ではそれぞれ30億円以上の予算があてられています。
①2024年7月5日に、厚生労働省労働基準局安全衛生部計画課は私たちに対して、中皮腫をはじめとするアスベスト関連疾患の治療戦略について協議する場を「関係各課と連携して設ける」と明言されました。その後、関係各課とどのような連携をして、どのような場を設けたのか教えてください。
②「命の救済」をするために石綿健康被害救済基金を活用し、環境省と厚生労働省が「中皮腫を治せる病気にする」ための具体的な施策を示してください。現行でそれが難しいのであれば、法改正して基金を活用できるようにすべきです。※
③労災疾病臨床研究事業費補助金においては2024年度事業の公募において、「臨床研究公募課題」および「非臨床研究公募課題」において複数件の応募があったにもかかわらず、一件ずつしか採択していません。採択されなかった応募課題について、一定の採択条件が満たされているのであれば速やかに採択し支援してください。また、支援の規模と枠組み(とりわけ、基礎研究の支援)を拡大してください。※
④上記②、③の要望について改善をしないのであれば、厚生労働省が検討を開始した「創薬支援基金」に準じて、任意方式で寄付を募る形の中皮腫をはじめとした治療推進のための基金を創設して、研究を推進してください。その際、建設アスベスト訴訟において責任が認められた関係企業や一定数のアスベスト労災認定者を出している企業には、義務的に一定の拠出を指示してください。
⑤上記②から④の要望について改善なし、検討をしないのであれば、中皮腫治療研究への支援をしている「一般社団法人中皮腫治療推進基金」へ国が財政的な支援をしてください。
⑥環境省が実施している中皮腫登録事業は、その目的である「治療法の向上を図る」、ひいては「中皮腫を治せる病気にする」ことに全く寄与していません。必要な予算措置を講じるとともに関係学会等と連携し、「中皮腫を治せる病気にする」ことを目的とした事業に再構築してください。そのための議論を早急に開始してください。※
⑦中皮腫以外のアスベスト疾患の研究支援の現状と「治せる病気」にするために研究支援のあり方を改善してください。
⑧現在、がんゲノム医療において行われている「がん遺伝子パネル検査」に対して有効な治療薬が提案された場合、治験ないしは患者申出療養制度の枠組みによって治療提案が行われます。労災・救済制度ともに、この患者申出療養制度においては、高額な薬剤費が自己負担となるケースが想定され、被害者救済の趣旨から大きく逸脱しています。石綿による健康被害の場合、早急に補償する対応をお願いします。※
4 石綿ばく露者の健康管理の体制構築(環境省、厚労省)
アスベストはあらゆる職業、地域で使用されてきました。しかし、石綿ばく露者の健康管理に関しては、厚労省の石綿健康管理手帳は一部の元労働者を対象としたものであり、環境省は「石綿読影の制度に係る調査」においてきわめて限定的な自治体を対象とした時限的な調査事業しか実施していません。これらにおいては建設業等における自営業者・一人親方等は必ずしも対象となりません。また建物などからの環境経由の石綿ばく露者も対象となっていません。直近では、能登半島地震に関連して被災地でアスベストが露出した環境でのボランティア作業などが確認され、健康不安が生じています。
①建設業等における自営業者・一人親方等、地域が限定されない建物ばく露やボランティア作業員等の環境経由の石綿ばく露者の健康管理をすき間なく実施するための検討の場を設置してください。自営業者・一人親方等への石綿健康管理手帳の交付、非職業性石綿ばく露者の全国統一的な健康管理制度を検討してください。※
5 ピア・サポートとグリーフケアの推進(環境省、厚労省)
2023年3月28日に閣議決定された第4期がん対策基本計画において、相談支援及び情報提供に関して「国は、ピアサポーターにつなげるための仕組みを検討する」とあります。更に、中皮腫をはじめ、アスベスト疾患を発症した患者・家族は病気の全体像や治療方針を検討するために医療者からの情報だけではなく、同じ病気の治療・療養の体験に強く関心を持ちます。遺族のグリーフケアに関しても同様の傾向があります。救済制度の利用アンケートでも「患者のネットワークに関する情報提供」について一定の要望が出ています。環境省のYouTubeチャンネルでも「公害健康被害補償法被認定者インタビュー(60代男性)」という動画の中で大気汚染公害の被害者の方が患者会の役割と重要性について述べています。環境再生保全機構はホームページにおいて「ぜん息・COPD」関連代替の「協力団体」として患者団体や患者支援団体を掲載しています。
(https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/platform/organization/index.html)
患者会の活動を紹介するページも掲載しています。
(https://www.erca.go.jp/yobou/saiban/nisiyodogawa/kanjakai.html)
①東京都をはじめ、都道府県や市区町村レベルでは、がん患者支援団体の情報を積極的に発信しているにもかかわらず、厚生労働省、環境省、環境再生保全機構は中皮腫や肺がんの療養支援にかかわる当事者団体と連携した取り組みを拒まれています。ただちに具体的な施策のあり方について当事者団体と協議してください。※
②全国の医療機関に対して、当会や中皮腫サポートキャラバン隊等の患者・家族支援団体があることを周知し、また全国の医療機関に対してこれら関係団体への相談を患者等に促すように要請してください。
6 すき間のない補償・救済をはかるための取り組み(環境省、厚労省、総務省)
石綿健康被害者は労災制度や救済制度で補償・救済が図られていますが、「すき間のない救済」を徹底するために以下の事項について迅速にご対応ください。
①中皮腫の死亡年別の死者数に対して、労災や救済法における認定者数は高い年でも7割未満です。厚労省、環境省で過去に実施した個別周知事業を再度実施してください。あわせて、引き続き各法務局での死亡診断書の原則27年間保管を徹底し、人口動態調査における「死亡小票」を活用できるよう法改正してください。2023年5月8日、統計情報部の担当者は労働基準局と連携し、改正の必要性を認識すれば総務省と調整する旨の回答を私たちとの意見交換においてしています。総務省との調整の進捗を教えてください。何もしていなければ、改正の必要性がないと判断した根拠について説明してください。※
②石綿健康被害救済制度における肺がんの認定者は中皮腫の1に対して0.15です(労災は0.73)。石綿健康被害救済基金の残高が積み上がっている原因にもなっています。判定基準が労災制度に対して厳格すぎて、申請・認定が進んでいません。びまん性胸膜肥厚や石綿肺と同様に、肺がんの判定基準に「石綿ばく露歴」を取り入れ、労災相当の基準としてください。少なくとも、労災請求の調査において職業性ばく露歴が認められ、それにもとづいて労災認定基準を満たしている被災者については労災認定の有無を問わず救済制度において認定するように運用を見直してください。※
③国際がん研究機関(IARC)をはじめ、国際機関において卵巣がん、喉頭がんとアスベストばく露の関連性が指摘されています。労災保険制度における認定疾病に追加してください。2024年7月5日に厚生労働省および環境省は「知見の収集に努める」と回答がありました。具体的にどのような収集をしたのか教えてください。※
④石綿救済制度において、良性石綿胸水、卵巣がん、喉頭がんを対象疾病に追加してください。2024年7月5日に厚生労働省および環境省は「知見の収集に努める」と回答がありました。具体的にどのような収集をしたのか教えてください。※
⑤石綿ばく露を原因として労災認定される者には、さまざまな理由から発症から請求までの期間が2年以上経過することもあります。労災請求に至る以前に、傷病手当金を申請・受給する場合もありますが、傷病手当金の支給対象期間が労災制度の休業補償の請求期限が消滅している場合もあります。そのような場合、同一期間において労災からの休業補償の支給がないにもかかわらず、支給された傷病手当金の返還を求められます。このような実態から、労災認定される可能性がありながら、「あえて労災請求をしない」という事例もあります。傷病手当金の返還を求めないなどの対応を早急に実施してください。※
具体的な事案の一例
2018年3月に肺がんを発症。被災者は長年、左官工として石綿にばく露していたことから診断後、医師に対して石綿関連の肺がんかどうか尋ねたが否定される。
発症から3年以上経過した2021年12月にアスベスト被害の相談を受け付ける報道をきっかけに患者支援団体に相談して同月、労災請求に至った。2022年3月に被災者は死亡。6月に遺族に対して決定通知と休業補償給付が支給された。
・初診日(傷病発生日):2018年(平成30)年3月
・傷病手当金支給期間:2018年(平成30)7月5日〜2019年(令和1)12月2日
※支給金額の合計は約300万円
・労災保険給付請求日:2021年(令和3)12月27日
・休業補償給付(労災)支給期間:2019年(令和1)12月27日〜
※2021年(令和3)12月26日までの休業補償給付額は約600万円。2022年(令和4)3月に被災者逝去。2022年(令和4)6月に労災支給決定。
⑥石綿健康被害救済制度における療養手当の更新者の中に、医師から再発転移の可能性が今後も考えられると言うことで定期検査を続けている認定者に対して、「おおむね5年にわたり経過観察のみであることが確認された場合等には、その後において認定疾病が継続しないと判断させていただくことがあります。」との通知が送られています。このような通知を送る運用上の根拠を示してください。
⑦治療上の有害事象(副作用等)の医療費負担について、医療機関から誤って自己負担にて支払いを指示される方がいます。また、治療に関連したものなのか否か、必ずしも判断できない有害事象もあり、医療機関によって対応が分かれています。治療上の影響が完全に否定できない場合は、労災保険制度や石綿健康被害救済制度に対して医療機関が費用を請求するように全国の医療機関に周知してください。また、石綿健康被害救済制度においては有害事象によって生じた口腔領域の治療が生じることもあります。制度上、医療費の支給において治療前に必要な歯科治療や有害事象によって生じた歯科治療を除外しないでください。
⑧石綿救済制度において中皮腫においては、確定診断時点で医療機関で申請の意思確認を本人にして、簡易な手続きで申請できるように負担軽減に向けて改善してください。加えて、労災では「同意書」においてCT等の医学的資料は労働基準監督署が収集します。救済制度は申請者による取得・提出が必須となっているので、労災と同じ対応をしてください。また、肺がんに係る医師証明の書類から【石綿が原因であることの根拠】の記載を削除するか、記載が必須でないことを明文化するなどの対応をしてください。
⑨建設アスベスト給付金制度において、申請から2年や3年以上も審査がされずに放置されている異常な事態が続いています。過度な立証を求めずに、提出資料から一定の合理性が判断できるのであれば速やかに認定してください。
7 地方公務員災害補償基金の審査業務見直し(総務省、厚生労働省)
地方公務員災害補償基金は地方公務員を対象として業務上(公務上)災害に罹患した方の災害補償の審査業務を担っています。アスベスト関連疾患を問わず、ひろく問題が指摘されていますが、下記の事項について見直し等を要望します。
①審査業務を厚生労働省(労働基準監督署)に委託してください。現在、アスベスト疾患においては一人の医師だけで、年に4回の審査しかしていません。そのため、申請から決定までに労災保険制度と比較して非常に長期の時間を要しています。また、審査が一人の医師に委ねられており、これまでの審査事案からも独善的な判断が散見されます。労災認定基準に準じた判断をするとしているにも関わらず、勝手な解釈を用いて労災認定基準から逸脱した判断をしています。同じアスベスト被害者であるにも関わらず、このような審査体制の問題から公平な対応がされない事態は極めて深刻です。
②少なくともアスベスト疾患に係る公務外決定された事案では、審査請求においては都道府県支部審査会において原処分の判断を異なる視点で審査する医師が全くおらず、再審査請求においても原処分に関わった同じ医師が判断をします。すなわち、申し立て手続きが有名無実化していて全く意味がありません。過去10年において、アスベスト疾患事案において審査請求及び再審査請求で原処分が取り消された件数を明らかにするとともに、審査請求及び再審査請求業務も厚生労働省(都道府県労働局及び労働保険審査会)へ委託してください。
③公務上決定者に対して、決定後、1年以上経過しても休業補償が支給されない事案が発生しています。このような杜撰な対応になっている理由を明らかにし、早急に給付の支給をしてください。
8 学校教育及び建築業労働者におけるアスベストの危険性などの理解の促進(文部科学相、厚生労働省)
建物の解体現場では外国人労働者の姿を多く見かけます。また、震災時には多くのボランティアが倒壊した建物で作業する光景も見られます。そうした方々が、アスベストの危険性をどれほど理解しているのか。そのためにも、アスベストに関する基礎的な教育を中学校・高校・大学の教育課程に導入してください。また、建築解体現場などで働く労働者への健康教育や、リスク情報の提供を強化することを強く求めます。