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腹膜中皮腫とともに生きる私の道(患者手記)

公開日:2025年3月20日

執筆:東海支部 平田勝久

※本執筆は、患者の体験をもとに個人の感想として執筆しています。治療選択など、医療に関わる問題については主治医をはじめ、通院されている病院の「がん相談支援センター」など、医療関係者との相談を踏まえてご検討ください。

中皮腫 平田

突然の告知

私の住まいは、関ヶ原の戦いの古戦場に近い、岐阜県不破郡垂井町です。若い頃から、人々の暮らしを守る水門の設計に携わってきました。海岸に設置されることの多い水門は、台風や津波から街を守る、重要な役割を担っています。30年以上もの間、この仕事に情熱を注ぎ、微力ながら社会に貢献できたことを誇りに思っています。

2018年9月、突然の腹膜中皮腫の告知を受けました。当時、お腹には6リットルもの腹水が溜まっていました。2リットルのペットボトル3本分の水が、お腹の中に詰まっているような状態です。それまで、これといった自覚症状はほとんどなく、まさか自分ががんに侵されているとは思いもよりませんでした。

発症の原因

大学卒業後、設計事務所に勤務し、水門設計の仕事に携わる中で、製作現場への出向を経験しました。そこで、鉄板に設計図を書き込む際に、「石筆」という、アスベストを含んだタルクでできた筆記具を使っていたのです。図面を書く際、石筆の先をグラインダーで研磨し、その粉じんを吸い込んでいたことが、中皮腫の発症原因ではないかと考えています。まさか、自分が長年携わってきた仕事が、自分の命を奪うことになるとは、皮肉なものです。

治療の苦悩と希望の光

告知を受けた時、医師からは「ステージ4」という診断を受けました。目の前が真っ暗になり、これからどうなるのだろうか、という不安で押しつぶされそうでした。最初は、シスプラチン、アリムタ、アバスチンという3種類の抗がん剤を組み合わせた治療を6回行いました。その後、アリムタ単剤での治療を3回行いましたが、効果はあまり見られませんでした。腹水は減らず、副作用で体は日に日に衰弱していきました。

会社を経営していた私は、治療と仕事の両立に悩みました。社員たちの生活を考えると、簡単に仕事を辞めるわけにはいきません。しかし、体は思うように動かず、精神的にも追い詰められていきました。夜も眠れない日が続き、絶望の淵に立たされたような気持ちでした。

そんな時、主治医の先生から緩和ケアを勧められました。緩和ケアというと、終末期の医療というイメージがありましたが、先生は「緩和ケアは、癌の治療初期から受けることが大切だ」と仰いました。主治医の先生と話す中で「オプジーボ」という、当時まだ未承認だった薬を試してみることを提案されました。

藁にもすがる思いでオプジーボでの治療に臨むことにしました。すると、オプジーボは私の体に劇的な効果をもたらしたのです。3回の投与後には、あんなに苦しめられた腹水が激減し、半年後にはほとんど消滅しました。信じられない程の変化でした。あの時、オプジーボを試す決断をしていなければ、今の私はなかったでしょう。先生には、感謝してもしきれません。

緩和ケアの重要性と再び訪れた苦悩

緩和ケアは、がん患者にとって、なくてはならない存在だと私は思っています。緩和ケアは、痛みや吐き気などの身体的な苦痛を和らげるだけでなく、不安や落ち込みなどの精神的な苦痛もケアしてくれます。また、患者だけでなく、その家族のサポートも行います。

がんと診断された患者は、大きな精神的なショックを受けます。家族もまた、患者を支える中で、様々な苦悩を抱えます。緩和ケアは、患者と家族が安心して治療に臨めるよう、精神的な面からサポートしてくれるのです。

オプジーボの効果で、一時的に体調は回復しましたが、新たな問題が発生しました。今度は、全身に激しい痒みが出始めたのです。夜も眠れないほどの痒みに悩まされ、様々な薬を試しましたが、効果はありませんでした。その後、水疱瘡のような症状が現れ、2022年12月には、オプジーボの投与を中断せざるを得なくなりました。68回も投与できたことは、本当に幸運だったと思います。

現在は、経過観察をしながら、ステロイドを服用して症状をコントロールしています。いつ再発するかもしれない、という不安は常にありますが、今を大切に、前向きに生きていこうと思っています。

患者会での活動

中皮腫と診断されてから、私は中皮腫患者と家族の会、そしてNPO法人中皮腫サポートキャラバン隊の活動に積極的に参加するようになりました。キャラバン隊では、全国各地の患者さんの元へ出向き、交流会や講演会を実施しています。特に地方の患者さんは、同じ病気を持つ人と出会う機会が少ないため、キャラバン隊の活動は大きな支えとなっています。

患者さんたちと交流する中で、私は多くのことを学びました。同じ病気を持つ仲間がいる、ということは、何よりも心強いことです。お互いの悩みや苦しみを分かち合い、励まし合うことで、前向きに生きる力を得ることができます。

また、毎週水曜日には、オンラインでのズームサロンを開催し、患者同士の情報交換や交流の場を提供しています。治療法や療養生活に関する情報だけでなく、日々の悩みや不安も共有し、心のケアを行っています。

中皮腫に関する正しい情報を広めるため、YouTubeチャンネル「みぎくりハウス」では、解説動画を配信しています。医師と患者が協力して、中皮腫とは何か、診断、治療、免疫チェックポイント阻害薬、化学療法、社会保障、リハビリなど、様々なテーマについて分かりやすく解説しています。

インターネット上には、中皮腫に関する情報が溢れていますが、その中には誤った情報や古い情報も少なくありません。患者さんが正しい情報に基づき、適切な治療を受けられるよう、これからも情報発信を続けていきたいと思っています。

今、私が最も願っていることは、中皮腫の新薬が開発されることです。中皮腫は、いまだに有効な治療法が確立されていません。多くの患者さんが、私と同じように、苦しい治療を強いられています。

中皮腫を治る病気にしたい、その一心で、治療研究予算の増額や、石綿健康被害救済基金の活用を訴えています。微力ではありますが、患者会の仲間たちとともに、新薬開発に向けた活動を続けていきたいと思っています。

今を乗り越える

キャラバン隊の仲間である右田孝雄さんが、よく「今を乗り越えよう」と言っていました。どんなにつらい状況でも、希望を捨てずに、今を乗り越えること。それが、未来につながると信じています。

私もまた、右田さんの言葉を胸に、前向きに生きています。つらい治療を乗り越え、希望を持って生きることの大切さを、多くの人に伝えていきたいと思っています。

先日、近所の薬局で、「笑おう 笑顔もクスリだよ!」というポスターを見かけました。本当にその通りだと思います。どんな時も笑顔を忘れず、前向きに生きることが、病気と闘う力になる。

もちろん、いつも笑顔でいられるわけではありません。つらいこと、苦しいこと、悲しいこと、たくさんあります。しかし、そんな時こそ、笑うことで心が軽くなり、前向きな気持ちになれます。

腹膜中皮腫という希少がんに侵されながらも、私は希望を捨てず、患者会の活動を通して、多くの患者さんを励まし、自分の経験を語り、新薬開発を訴え、笑顔を絶やさない姿が、少しでも多くの人々に勇気を与えられたら、これほど嬉しいことはありません。

これからも、私は中皮腫とともに、前向きに生きていきます。そして、中皮腫に苦しむすべての人々に、エールを送り続けたいと思います。

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