お知らせ

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アスベスト石綿健康被害に係るすき間のない救済を求める要望書(2024年5月31日)

公開日:2024年6月12日

当会では、5月31日付で以下の要望書を提出しました。7月5日(金)に予定している省庁交渉において、これらの要望について関係省庁との意見交換します。患者・家族のみなさまのご参加をお待ちしております。

時間:13時30分〜16時(予定)

場所:衆議院第二議員会館第一会議室

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2024年5月31日

環境大臣 伊藤信太郎 様
厚生労働大臣 武見敬三 様

中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会
会長 小菅千恵子

アスベスト石綿健康被害に係るすき間のない救済を求める要望書

アスベスト健康被害をとりまく諸制度に関して、下記の通り要望します。

とりわけ、環境省においては、前石綿健康被害対策室長の木内哲平氏が水俣病事件の被害者との懇談においてわずか3分という時間制限を設け、時間が超過した際にマイクの音量を切ってしまったという問題を起こしました。木内氏のこのような被害者軽視の姿勢は、少なくとも石綿健康被害対策室長時代から続いているものです。私たちは、水俣病事件の被害者と同様に軽視されていることに強い危機感を持っており、木内氏の患者の命を軽視する姿勢によって、2023年に行われた石綿健康被害救済小委員会において当事者である被害を受けた患者・家族の声を全くと言ってよいほど無視した恣意的な運営が行われたことに加え、石綿健康被害救済基金を活用するための議論が十分になされなかったことに憤りを覚えています。

ここに、2022年6月10日に参議院環境委員会において全会一致で決議された「石綿による健康被害の救済に関する法律の一部を改正する法律案に対する付帯決議」の趣旨に沿って、前回の小委員会の取りまとめを見直し、アスベスト健康被害者に寄り添った対応と結論を強く求めることを記したうえでの要望であることを、改めて明示します。

ご回答をよろしくお願いいたします。

1 被害者軽視の姿勢の是正(環境省)

環境省石綿健康被害救済対策室は、前室長が起こしてきた各種問題のある取り組みに象徴されるように、被害を受けた患者・家族の声を全く聞いていません。

①これまでの姿勢をあらため、患者・家族の声を聞く努力をしてください。努力していく場合、具体的にその方法を示してください。

2 「中皮腫を治せる病気にする」ことを含めたアスベスト疾患の治療・研究開発の促進(環境省、厚労省)

「中皮腫を治せる病気にする」ための国の研究支援が不十分です。その他のアスベスト疾患も抜本的に治療研究の支援を見直す必要があります。環境省が管理している石綿健康被害救済基金においては約800億円の残高があるにもかかわらず、その一部を治療研究の支援に一切活用していません。

厚生労働省では労災疾病臨床研究事業費補助金の予算を増額し、年間で約1億円の研究支援にあてていますが、「中皮腫を治せる病気にする」ためにはまだまだ程遠い支援額です。国の責任が認められた、あるいは一定の責任を認めた肝炎やエイズ等の薬害事件の関係ではそれぞれ30億円以上の予算があてられています。

①「命の救済」をするために石綿健康被害救済基金を活用し、環境省と厚生労働省が「中皮腫を治せる病気にする」ための具体的な施策を示してください。現行でそれが難しいのであれば、法改正して基金を活用できるようにすべきです。

②労災疾病臨床研究事業費補助金においては2024年度事業の公募において、「臨床研究公募課題」および「非臨床研究公募課題」において複数件の応募があったにもかかわらず、一件ずつしか採択していません。採択されなかった応募課題について、一定の採択条件が満たされているのであれば速やかに採択し支援してください。また、支援の規模と枠組み(とりわけ、基礎研究の支援)を拡大してください。

③環境省が実施している中皮腫登録事業は、その目的である「治療法の向上を図る」、ひいては「中皮腫を治せる病気にする」ことに全く寄与していません。必要な予算措置を講じるとともに関係学会等と連携し、「中皮腫を治せる病気にする」ことを目的とした事業に再構築してください。そのための議論を早急に開始してください。

④環境省は2023年6月に取りまとめられた「石綿健康被害救済制度の施行状況及び今後の方向性について」で、迅速かつ適切な石綿関連疾患の診断のための研究に取り組むべきと指摘されているにもかかわらず、中皮腫の診断で注目されている胸水を用いた確定診断やゲノム情報等の診断など、患者の再発等の負担軽減や治療選択の拡大にかかわる研究支援の取り組みを一切していません。患者のニーズを無視した事業しかしていない理由を説明してください。

⑤中皮腫以外のアスベスト疾患の研究支援の現状と「治せる病気」にするために研究支援のあり方を改善してください。

⑥現在、がんゲノム医療において行われている「がん遺伝子パネル検査」に対して有効な治療薬が提案された場合、治験ないしは患者申出療養制度の枠組みによって治療提案が行われます。労災・救済制度ともに、この患者申出療養制度においては、高額な薬剤費が自己負担となるケースが想定され、被害者救済の趣旨から大きく逸脱しています。石綿による健康被害の場合、早急に保障する対応をお願いします。

⑦中皮腫を含む希少がんの診療情報を、他の一般的ながん同様に公開することを望みます。現在一般的ながんの病院毎の診療件数・生存率は「がん情報サービス」に公開されているにも関わらず、中皮腫を含む希少がんにおいてはこれがなされていません。病院選びやセカンドオピニオン先の選定の重要な情報であるため開示を求めます。

3 アスベスト被害者の給付格差をなくす取り組み(環境省、厚労省)

労災と救済給付の給付水準や給付体系には大きな格差があります。

①近年の物価上昇、犯罪被害者等給付金改正の動きなど、社会環境の変化を踏まえてすき間と格差をなくす給付内容に見直してください。

②2023年6月に取りまとめられた「石綿健康被害救済制度の施行状況及び今後の方向性について」では、今後も「必要な調査を実施」し、制度をとりまく状況を注視する旨の記載がされています。この点、2023年6月27日の石綿健康被害救済小委員会において浅野直人委員長は「何が必要かということはその都度その都度出てくる」、「何が必要な調査であるかということについては、相当幅広に考えることができる」と発言しています。必要な検討を速やかに開始してください。

4 石綿ばく露者の健康管理の体制構築(環境省、厚労省)

アスベストはあらゆる職業、地域で使用されてきました。しかし、石綿ばく露者の健康管理に関しては、厚労省の石綿健康管理手帳は一部の元労働者を対象としたものであり、環境省は「石綿読影の制度に係る調査」においてきわめて限定的な自治体を対象とした時限的な調査事業しか実施していません。これらにおいては建設業等における自営業者・一人親方等は必ずしも対象となりません。また建物などからの環境経由の石綿ばく露者も対象となっていません。

2023年6月に取りまとめられた「石綿健康被害救済制度の施行状況及び今後の方向性について」では、「石綿読影の制度確保等に関する検討会において、健康管理のあり方について引き続き必要な検討を行うべきである」とされていながら、2023年9月5日に開催された「石綿読影の制度確保等に関する検討会」では上記のとりまとめられた報告書での指摘部分すら報告されていません。

①2023年9月5日に開催された「石綿読影の制度確保等に関する検討会」では、上記のとりまとめられた報告書での指摘部分すら報告されていない理由を教えてください。

②建設業等における自営業者・一人親方等、地域が限定されない建物ばく露等の環境経由の石綿ばく露者の健康管理をすき間なく実施するための検討の場を設置してください。

5 ピア・サポートとグリーフケアの推進(環境省、厚労省)

2023年3月28日に閣議決定された第4期がん対策基本計画において、相談支援及び情報提供に関して「国は、ピアサポーターにつなげるための仕組みを検討する」とあります。更に、中皮腫をはじめ、アスベスト疾患を発症した患者・家族は病気の全体像や治療方針を検討するために医療者からの情報だけではなく、同じ病気の治療・療養の体験に強く関心を持ちます。遺族のグリーフケアに関しても同様の傾向があります。救済制度の利用アンケートでも「患者のネットワークに関する情報提供」について一定の要望が出ています。環境省のYouTubeチャンネルでも「公害健康被害補償法被認定者インタビュー(50代男性)」という動画の中で大気汚染公害の被害者の方が患者会の役割と重要性について述べています。環境再生保全機構はホームページにおいて「ぜん息・COPD」関連代替の「協力団体」として患者団体や患者支援団体を掲載しています。

(https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/platform/organization/index.html)

患者会の活動を紹介するページも掲載しています。

(https://www.erca.go.jp/yobou/saiban/nisiyodogawa/kanjakai.html)

①東京都をはじめ、都道府県や市区町村レベルでは、がん患者支援団体の情報を積極的に発信しているにもかかわらず、厚生労働省、環境省、環境再生保全機構は中皮腫や肺がんの療養支援にかかわる当事者団体と連携した取り組みを拒まれています。ただちに具体的な施策のあり方について当事者団体と協議してください。

②環境省と環境再生保全機構は他の公害・環境問題の被害者との差別的な対応をただちに見直してください。また、このような扱いをしてきた理由を説明してください。

6 すき間のない補償・救済をはかるための取り組み(環境省、厚労省)

石綿健康被害者は労災制度や救済制度で補償・救済が図られていますが、「すき間のない救済」を徹底するために以下の事項について迅速にご対応ください。

①中皮腫の死亡年別の死者数に対して、労災や救済法における認定者数は高い年でも7割未満です。厚労省、環境省で過去に実施した個別周知事業を再度実施してください。あわせて、引き続き各法務局での死亡診断書の原則27年間保管を徹底し、人口動態調査における「死亡小票」を活用できるよう法改正してください。2023年5月8日、統計情報部の担当者は労働基準局と連携し、改正の必要性を認識すれば総務省と調整する旨の回答を私たちとの意見交換においてしています。総務省との調整の進捗を教えてください。何もしていなければ、改正の必要性がないと判断した根拠について説明してください。

②石綿健康被害救済制度における肺がんの認定者は中皮腫の1に対して0.15です(労災は0.73)。石綿健康被害救済基金の残高が積み上がっている原因にもなっています。判定基準が労災制度に対して厳格すぎて、申請・認定が進んでいません。びまん性胸膜肥厚や石綿肺と同様に、肺がんの判定基準に「石綿ばく露歴」を取り入れ、労災相当の基準としてください。

③国際がん研究機関(IARC)をはじめ、国際機関において卵巣がん、喉頭がんとアスベストばく露の関連性が指摘されています。労災保険制度における認定疾病に追加してください。

④石綿救済制度において、良性石綿胸水、卵巣がん、喉頭がんを対象疾病に追加してください。

⑤石綿ばく露を原因として労災認定される者には、さまざまな理由から発症から請求までの期間が2年以上経過することもあります。労災請求に至る以前に、傷病手当金を申請・受給する場合もありますが、傷病手当金の支給対象期間が労災制度の休業補償の請求期限が消滅している場合もあります。そのような場合、同一期間において労災からの休業補償の支給がないにもかかわらず、支給された傷病手当金の返還を求められます。このような実態から、労災認定される可能性がありながら、「あえて労災請求をしない」という事例もあります。傷病手当金の返還を求めないなどの対応を早急に実施してください。

具体的な事案の一例

2018年3月に肺がんを発症。被災者は長年、左官工として石綿にばく露していたことから診断後、医師に対して石綿関連の肺がんかどうか尋ねたが否定される。

発症から3年以上経過した2021年12月にアスベスト被害の相談を受け付ける報道をきっかけに患者支援団体に相談して同月、労災請求に至った。2022年3月に被災者は死亡。6月に遺族に対して決定通知と休業補償給付が支給された。

・初診日(傷病発生日):2018年(平成30)年3月
・傷病手当金支給期間:2018年(平成30)7月5日〜2019年(令和1)12月2日
※支給金額の合計は約300万円

・労災保険給付請求日:2021年(令和3)12月27日
・休業補償給付(労災)支給期間:2019年(令和1)12月27日〜
※2021年(令和3)12月26日までの休業補償給付額は約600万円。2022年(令和4)3月に被災者逝去。2022年(令和4)6月に労災支給決定。

⑥石綿健康被害救済制度の認定を受けたものが、その認定に係る「保有個人文書開示請求」を環境再生保全機構の担当窓口に申し出たところ、「保有個人文書開示請求」ではなく「情報提供(資料提供)」でごまかす対応が散見されます。これは請求人に対する権利侵害なので直ちにこのような窓口対応を改める指導をしてください。

⑦石綿健康被害医療手帳の認定更新につき、2023年度分まで集計されており、制度開始以来3回目の更新(15年療養)の時期に入っています。そこでこの更新状況について、疾病ごと更新回数ごとに、年齢構成、性別、臓器別・型別、治療内容等につき集計・分析し公表してください。

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