建設アスベスト給付金制度に係る要望書を厚生労働書に提出
公開日:2024年6月7日
2024年5月16日付で厚生労働省に「建設アスベスト給付金制度に係る要望書」を提出しました。
これを踏まえ、本日、2024年6月7日に厚生労働省との協議の場を設け、制度の改善を求めましたのでご報告致します。引き続き、患者・家族に寄り添った制度になるよう求めていきます。
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2024年5月16日
厚生労働大臣 武見敬三 様
中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会
会長 小菅千恵子
建設アスベスト給付金制度に係る要望書
建設アスベスト給付金制度に関して、下記の通り要望します。ご回答をよろしくお願いいたします。
1「特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会における審査方針」に沿った運用
①審査会の審査方針は、「具体的な判断に当たっては、特に就労歴や喫煙の習慣等について、その立証が容易でない場合も想定されるので、同種事例の裁判例も踏まえて、関係者の証言や申述等の内容が、当時の社会状況や被災者が置かれていた状況、収集した資料等から考えて、明らかに不合理でない場合には柔軟に事実を認定する。」とされています。
また、特に、損害の迅速な賠償を図る観点から、建設アスベスト訴訟の判決を踏まえ、屋内・屋外の判断については、「原則として収集した資料等に基づき個別に判断を行うが、一般的に屋内作業があるとされている下表の職種については、屋内作業に従事していたと判断できるものとする。」とされ、大工、左官等の多数の職種が例示されています。
ところが、例えば大工として対象期間内に就労していたことは立証されているにもかかわらず、具体的な作業状況や作業場所、取扱建材等が不明であるとして、追加資料の提出を求められるケースがあります。請求者が被災者本人であれば一定の立証が可能ですが、特に遺族の場合は元同僚等がいない等、その立証が容易でない場合が多いのが実情です。建設アスベスト訴訟の判決からも明らかなとおり、一般に、対象期間内に大工等として就労した者(その結果、石綿関連疾患を発症した者)は、屋内作業において石綿ばく露を受けていることは明らかです。したがって、専ら屋外作業に従事した事情が確認された場合や、特段の事情によって石綿ばく露を受けなかった事実が確認されたなど特殊例外的な場合を除き、対象期間内に審査方針に列挙された職種に就労していたことが立証された場合は、速やかに屋内で石綿ばく露を受けた事実を認定してください。
②被災者本人の申述あるいは親族の申述のみを提出したケースでは、客観資料や親族以外の第三者の申述を求められますが、これらの資料が提出できないケースが多数あります。こうした場合、被災者本人あるいは親族の申述等の信用性が高く、その内容が明らかに不合理でない場合には、審査方針に基づいて柔軟に事実を認定してください。建設アスベスト訴訟の判決においても、証拠が被災者本人の申述のみであってもその申述内容に基づいて事実認定されています。客観資料や親族以外の第三者の申述がない限り柔軟に事実認定しないという現在の運用は、審査方針に反するだけでなく訴訟より過度な立証を求めるもので不当です。「明らかに不合理でない場合には柔軟に事実を認定する」とする審査方針に沿った運用の徹底を求めます。
2 労災支給決定等情報提供サービスにおける積極的な支給へ向けた運用
①前記1のとおり現在の制度運用において、とりわけ通常請求における事実認定においては、その判断基準が不明瞭で、申請者に不必要な立証や過度な立証が求められています。石綿関連疾患の労災保険制度の運用における基労補発第0727001号平成17年7月27日付け「石綿による疾病に係る事務処理の迅速化等について」において、「石綿ばく露のおそれがないことが明白な場合を除き、被災者が石綿ばく露作業に当該期間従事していたと事実認定して差し支えないこと」と指示しているような積極的な救済を図る姿勢に転換すべきです。
なかには、訴訟でも求められない程、過度な立証を求められる事例があります。一方で、被災者が死亡し、遺族も具体的な作業内容を把握しておらず、当該事業場も廃止されている形で労災認定された事案で何の問題もなく「該当あり」で認定に至った事案もあります。
②労災発0226第1号令和6年2月26日付け「労災補償業務の運営に当たって留意すべき事項について」においても、「労災支給決定等情報」との関連で重要になることから、一人親方等の期間の就労歴や作業歴等について調査すべき旨の指示が出されています。労働基準監督署のとりまとめ作業において差異があったり、とりまとめをした担当者が「該当あり」になると思っているにもかかわらず「該当なし」とされる事案が頻発しています。通達等において、労災支給決定等情報提供サービスにおける支給基準を具体的に示し、各労働基準監督署がそれを意識して取りまとめを出せるよう具体的な指示を出してください。
建設作業従事者は労働者期間も一人親方等の期間も同様の作業に従事していることが多いので、労災調査において、労働者期間に屋内建設作業に従事していた事実が認定でき、本人聴取書等において一人親方等の期間も労働者期間と同様の作業に従事していたことが分かる場合には、一人親方等の期間における作業内容・作業環境等が具体的に認定できない場合であっても、「関係者の証言や申述等の内容が、当時の社会状況や被災者が置かれていた状況、収集した資料等から考えて、明らかに不合理でない場合」に当たるものとして、一人親方等の期間についても認定してください。
例えば、労災認定者が労災支給決定等情報提供サービスを利用した際、前後の職歴の文脈から明らかに「該当」とすべき業務内容・時期であるにもかかわらず、提供すべき情報がないとされる事案があります。東京労働局管内の事案(該当期間が自営業)では、調査結果復命書における作業歴情報において、「在籍中の石綿ばく露作業歴従事期間」が労災保険制度上では算定されないことから全く記載されておらず(千葉や埼玉では労災保険の対象とならずとも石綿ばく露期間として記載している)、「石綿ばく露の状況」の欄には被災者の申述内容の要旨として、「土工として配管・水道工事に従事していた」旨の記載がされているにもかかわらず、屋内作業を確認できないために該当にならないと厚生労働省の担当者から説明を受けています。
また、埼玉労働局管内の事案では調査結果復命書における作業歴情報において、「請求人は、被災者が自営時代は石綿が吹き付けられている建物の柱に石膏ボードを貼るなどする作業を行っていた旨述べている」と記載し、「在籍中の石綿ばく露作業歴従事期間」として36年と記載されているにもかかわらず提供すべき情報がないとされる事案もありました。
さらに、大阪労働局管内茨木労働基準監督署の事案では、昭和47年まで建設現場で石綿吹付けの補助作業をしていた事案で、本人が労災申請時に「石綿吹き付け作業の補助業務に従事していた」と申告していたにも関わらず、建設現場内での作業内容を十分に聴取せず、建設現場に行く前の倉庫内での石綿作業やボード類の切断作業のみを聴取して労災支給決定がなされた結果、労災支給決定等情報提供サービスでは提供すべき情報がないとされる事案もありました。
③労災保険制度以外の公務災害等で認定された被災者の中には、給付金で認定相当の方もいます。しかし、労災以外の制度で認定された被災者等には労災支給決定等情報提供サービスに相当する制度がありません。労災以外の認定者について、他省庁等と連携して同様の運用をしてください。地方公務員災害補償基金が公務上決定した事案については、同基金が作成した「公務上認定通知書」または「本部協議事案及び本部紹介事案処理経過報告書」(労災保険の実地調査復命書に相当するもの)において審査すれば十分ですので、「通-様式3就業歴等申告書(別紙)」など余計な書類の提出は求めないようにしてください。
3 通常請求における積極的な支給へ向けた運用
①通常請求における申請者の中には、労災請求時に石綿ばく露の意識がなく、あるいは労災は「直接ばく露」だけが対象になると考え、十分な申述をしていない被災者もいます。本人の新たな申述が出てきた場合、同僚等の第三者証明がない場合でも「石綿ばく露のおそれがないことが明白な場合を除き、被災者が石綿ばく露作業に当該期間従事していたと事実認定して差し支えないこと」の方向で取り扱いをしてください。
例えば、ある被災者は不動産管理業に従事していた期間があり建設現場の屋内において立ち会いや打ち合わせをして間接的に石綿粉じんにばく露しましたが、労災ではそれ以前の配管工事業で認定され、調査の段階で担当者も本人の申し立てを鵜呑みにして不動産管理業時代の石綿ばく露の有無を丹念に確認していません。通常請求において、極めて具体的に本人が当時の状況を書面にまとめて提出しましたが不認定とされました。
②陳述書で作業内容等について十分な情報を記載しているにもかかわらず、無駄に所定の様式に記載するよう指示されるなどの事案があります。形式的な問題だけで、無用な書類の提出を求めないでください。
③石綿使用の実態や訴訟での事実認定の実績を重視し、使用なしや不明といった申請者(被災者)の就労先への照会は重視しないでください。厚労省が被災者の就労先に照会をかけて、石綿使用なしや不明との回答があった場合にばく露期間と認定されない事例が存在します。就労先が責任を逃れることや、使用者も石綿を使用していることを認識していないことがあります。
4 追加請求における運用
①既に給付を受けた疾病で死亡した場合の取り扱いにつき、同一疾病での追加給付金請求の場合は、「石綿関連疾病への罹患が分かる資料」は不要なはずなので、その旨を『手引き③≪追加給付金を請求される方へ≫』に記載して下さい。
5 審査の状況と情報開示
①労災支給決定等情報提供サービスを受けた請求について、労災支給決定等情報の「5 就労歴及び石綿ばく露作業従事期間等に関する情報」の「事業場名」と「所在地」以外の情報について集計、分類し、公表して下さい。特に「作業の状況」について。
②審査結果のうち「保留」とされた事案の取り扱いについて教えて下さい。