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公共工事におけるアスベスト対策:建築物解体における事前調査等の実態

公開日:2023年2月5日

解体・改修工事現場におけるアスベスト対策

解体・改修工事現場においてアスベスト対策は、法律上強化されてきているものの、いまだにアスベスト粉じんの飛散事故、対策を怠って取り返しの効かない様相を呈してしまっている工事現場の報告は後を絶ちません。これは民間の工事にとどまらず、法を守らせる側の自治体の発注する公共工事にもいえます。

公共工事で実施されているアスベスト対策が十分でないとすれば、民間の解体工事・改修工事のアスベスト対策について、適切な指導・監視できるわけがありません。その意味では公共事業は、実施自治体のアスベストに関する危機意識や認識を反映します。これはアスベスト対策には地域差があるということです。

石綿吹付

公共工事のアスベスト対策の問題点

公共事業の解体工事の発注は、対象となる建物の発注前のアスベスト調査が前提となります。ここでおおよその工事金額が決まってきます。これは当然のことのように思われますが、ここに問題の発端があります。

すなわち、解体工事や改修工事を発注する際のアスベスト対策に係る費用は、自治体ごとに差はあるものの、数十年前に調査された情報を基にしたものや、吹き付けアスベストなどのレベル1のみの調査や、露出したものに限る調査で天井裏など隠蔽部が見られていないなど限定されたアスベストの把握によって発注され、アスベスト除去費用が誤って算定されることがあります。ところが、入札後事業者が決まった後に、さらに新たにアスベスト調査が必要になります。大気汚染防止法第18条の17には、「建築物等を解体し、改造し、または補修する作業を伴う建設工事(・・・)の受注者(・・・)は、当該解体等工事が特定工事に該当するか否かについて調査を行うとともに、環境省令で定めるところにより、当該解体等工事の発注者に対し、当該調査の結果について、環境省令で定める事項を記載した書面を交付して説明しなければならない。・・・」とあります。したがって、ここで2回目の事前のアスベスト調査が行われることになります。

この2度の調査、発注者による入札前のアスベスト調査結果と、受注者による特定工事に該当するか否かの調査が一致しないことが起こりえます。発注前の調査では対象にならなかった建材などが受注者による調査で調査対象に追加され、また、天井裏などの隠蔽部の調査でさらに一致しない結果になってしまいます。

このようなことが実際に神戸市の市発注の工事で起こりました。

2020年10月、兵庫県保険医協会は、神戸市立下山手住宅解体工事のアスベスト対策について、神戸市住宅建設課および解体事業者からの工事説明を受け、アスベスト除去対策についてリスクコミュニケーションを行いました。

その席で、レベル1の吹付けアスベストの見落としが発覚し、それまでの業者によるアスベスト調査が見直されることになりました。神戸市は調査専門の3機関によるアスベスト調査を実施しましたが、その3機関による調査結果がバラバラでした。市はやむなくその3機関が、アスベスト含有としたすべての建材の粉じん対策を行うとし、その結果、アスベスト対策を実施する施工面積は当初の計画の6.6倍、工事費用が5億円増額することになりました。

このようなことが実際に公共工事でも起こり得るのです。神戸市の場合は、ストップ・ザ・アスベスト西宮の上田さんが、兵庫県保険医協会と神戸市とのリスクコミュニケーションに尽力され、神戸市と粘り強く交渉した結果判明した事実です。

リスクコミュニケーションの実施によって、解体工事におけるアスベスト対策が工事の直前に見直され、工事現場からの発がん物質の飛散をくいとめることができた事例です。

リスクコミュニケーションによるアスベスト粉じん飛散事故予防

この例に見るように、一般の住民によるリスクコミュニケーションは、実際の工事のアスベスト対策を見直し、アスベスト粉じんの飛散を防ぎます。工事現場周辺の住民は、解体工事が安全に実施されないと、直接の被害を被ることになります。

発がん物質であるアスベスト粉じんのばく露や、騒音や振動による直接の被害、周辺の工事車両による交通事故の危険性などが、周辺に住む住民、子供たち、学校や幼稚園、保育園等の安全を脅かします。この安全の確保について、住民はつねに素人で、工事現場内の情報もなく、安全対策を工事業者任せにせざるを得ない立場に置かれます。一方、工事業者は安全性を多少犠牲にしても、工事を短期間で安く行うことで利益を上げようとするバイアスがかかりがちです。なかには、もちろん、安全性を第一に工事を行う業者もいます。

しかし、住民は、明日から始まる隣の解体工事の業者が、その点で信頼できるかどうかはわかりません。だからこそ、工事現場の立ち入り権限を持つ役所を頼り、工事業者の直接の説明を聞く必要があります。

住民によるリスクコミュニケーションが普通に実施されるようになり、自治体も当たり前にそれを進めていくようになることで、全体のアスベスト飛散を抑えていく効果が期待できます。数十年後のアスベスト被害を予防できるのは、今の私たちのリスクコミュニケーションだと考えます。

執筆・建築物石綿含有建材調査者 永倉冬史
(中皮腫・じん肺・アスベストセンター事務局長)

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