個別の治療や症状に関して
(質問) 胸膜中皮腫の経過と症状がどうなるのか、今後が心配です。
(答1) 胸膜中皮腫の経過は個人差がありますが、治療の方法に関わらず、ある程症状の落ち着いた時期が数ヶ月以上続くことが多いようです。従って、この時期の過ごし方がご本人にも、ご家族にも、とても大切になります。好きなことを続けたり、旅行をしたり、一見病気でない人のごとく活動できる時期とお考えいただいてよいと思います。
その後、突然体力が落ちて床に伏してしまう時期が来る場合、残念ながらほとんど回復が困難になり、数週間で亡くなることが多いようです。数日前まで歩行可能であった方が、糸が切れたかのように亡くなる場合もあります。ご家族の方には、急に谷に落ちるような感覚になるかもしれません。このような経過は、他のがん疾患とはだいぶ異なるように思います。もちろん、日々体が病にむしばまれて行くことは避けがたいのですが、毎日坂道を転げ落ちて行くような病気ではないことを頭に入れておいてください。
症状の落ち着いた時期を少しでも楽に過ごす方法として、痛み止めの適切な服用はもちろん、酸素吸入を利用したり、訪問看護を利用することも視野に入れてください。実際、酸素を携えてのドライブや小旅行は十分可能です。また、薬・放射線による副作用を除き、食べ物や飲み物に制限がないのが胸膜中皮腫の特徴です。亡くなる直前までそれなりに食事をされ、飲酒されていた方も少なくありません。また、アスベスト肺がんとは違うので、理論的には喫煙による気分転換も可能です。
(答2) 心配の余り、どこへも出かけないというのは、もったいないことです。基本的には、煙草を吸っている方は「禁煙」を!これは原則です。また、風邪を引かないように、うがいや手洗い、流行時には人ごみを避ける、早めに予防接種を受けるなども対策の一つです。快食・快眠・快便・・・これはどんなときもやっぱりとても大事なことです。呼吸を気にする余り、身体を硬くして過ごしていて、運動不足になったり、便秘になったりしている人を見かけます。肩をゆっくり廻し、胸郭を広げましょう。口すぼめ呼吸の練習は、息切れがひどくなってからでは、なかなかうまく出来ません。ヨガや太極拳の呼吸法をしている人が、症状が進んだときにも、落ちついて腹式呼吸がやれていました。いかに、上手に空気を取り込むか、日頃から、自分の身体の特徴を、自分自身で感じられるようにしておくことは、何も、中皮腫の方でなくても大切かもしれません。
日頃から、自分の体調の変化を、自分で感じられるようにすること。これは、簡単なようで実は難しいのです。自分の身体感覚をきちんと取り戻しておけば、変化を言葉で表現でき、医師や看護師にきちんと訴える事が出来ます。中皮腫の方は、頑張り屋さんが多く、「このぐらい何でもない」と、息切れしていても頑張ってしまいがちです。ちゃんと症状を訴えられることが、とても大事です。
手術後で傷が癒えずに、いつまでも鉛のような板をわき腹に入れているみたいだと訴え背を丸くしている方が居られました。肩を後ろに少しずつ廻し胸郭を広げる運動を始めただけで息苦しさが少し軽くなり、歩く距離が伸びました。もちろん、必要なときは酸素療法の導入が出来ます。医師に相談しましょう。酸素ボンベを持ちながら、旅行にも出かけられます。
不安を抱えながら生活するときに、相談する先を早めに見つけることが一番ではないでしょうか?「患者と家族の会」は、その相談先の一つです。それぞれの方の、経過は異なります。早めに相談する医療機関を見つけておきましょう。
(質問) 腹膜の中皮腫についても教えてください。
(答) 腹膜中皮腫の症状は、胸膜中皮腫以上に個人差があります。痛いながらも数年間闘病されている方から、数ヶ月でなくなる方まで多様です。また、痛みも激しい場合からほとんど感じない場合まであるようです。その原因はどこに腫瘍が広がるかによります。食物が胃腸に到達すると激痛が走り、発症時からほとんど固形物が摂取できない方の場合は、体力の衰えの著しいことが否めません。一方、痛みがひどくない方の場合、胸膜中皮腫と異なり呼吸は正常ですので、外見では病気であることがわかりません。
胸膜中皮腫と同じように、一定の安定期があるようにも見受けられますが、一般的には、腹膜の痛みのため口から食物を摂りにくくなることが多くなり、体力が低下しやすく、安定期はあっても短期間ではないでしょうか。逆に安定されている場合は、通常の食事が取れる程度の痛みの方、といえるようです。痛みはもちろんですが、腹膜中皮腫の場合は、食べたいものが食べられなくなることが精神的にも辛いと考えます。
(質問) 緩和ケアについて伺います。痛みに対する恐怖は大きいと思うのです。どの程度痛みは取り除けるのか、その方法は何でしょうか?
(答) 痛みに対して、かなりの部分取り除ける薬剤の工夫が出来てきました。しかも、在宅での痛みのコントロールもかなりの部分可能です。ただし、この薬剤を処方するにあたっては、緩和医療に理解のある医師に出会わなければなりません。すべての人がすぐにモルヒネが処方されるかというと、そうではなく、その人の症状にあわせて、他の薬剤との組み合わせも必要です。その人の痛みがどのような機序で起こっているのかを、総合的に判断しながら、鎮痛補助薬と呼ばれるものとの組み合わせや、精神安定剤なども組み合わせながら、痛みに対して対応していきます。
背中や腰の痛みも伴う人には、その部分の温罨法やマッサージなども効果がありますし、利尿剤で身体に溜まった水を尿として出すことで、呼吸に伴う苦痛が楽になる人もいます。「痛くなるに違いない」と身体を硬くしているだけで痛み止めの量が増えている人もありました。病院からの外泊時に注射薬を飲み薬や坐薬に換えて使い、逆に痛みのコントロールがついて退院できた中皮腫の方がおられました。
(質問) モルヒネの種類と、副作用について教えて下さい。
(答) モルヒネは、実は人間誰しもが自分の身体の中でも似た物質が産生され痛みに対応しているといわれ、痛みのある人に適正に使った場合は、決して中毒にはならないし、急に命を縮めるということも無いことを知っていただきたいのです。医療機関の中でも、モルヒネを提案されたら、もうおしまいだなどと思っているところもあり、なかなか的確に必要な種類や量を処方されない例があります。
モルヒネの種類は次々と開発され、様々なタイプが出てきましたが、持続時間、投与経路や体内の代謝経路などで違いがあります。一つ一つを細かく知ることより、自分に勧められたものは何かを薬物文献などで調べる方が早道です。呼吸苦に関してはモルヒネはとても効果的ですので、怖がらずに医師と相談の上、必要に応じて導入されることを、お勧めします。
副作用の代表例は、導入したての頃の吐気です。これは、軽い吐気止めを1〜2日処方してもらい一緒に飲むことで軽快します。そういった説明を必ず聞いてください。また、便秘が起こりやすくなります。緩下剤を一緒に出してもらいましょう。便を軟らかくするタイプの下剤と、便を押し出す力を補助するタイプのものとあります。もちろん、水分を十分に摂ることも大切です。痛みが取れると同時に眠気も催すことがあります。初めの2〜3日間は身体になじむ意味でも少し眠気がおこります。その時期を越えてもまだ続くようなら減量などの相談が必要です。そのほかにも副作用はありますが、主だったものはこの3点です。別の薬やアルコールとの相乗作用もあるので、処方時には、それぞれの種類に応じた説明をよく聞きましょう。
(質問) 抗がん剤は、なぜ高価なのですか?価格に幅がありますが、高い抗がん剤が効きますか? 抗がん剤で、ジエネリックはないのでしょうか?
(答) 開発費が高いから、抗ガン材は高価なのだと思います。高いから効くという事はなく、安くても効果があれば効くと思います。現在ジェネリックは少ないように思います。
(質問) 病院の肺胸膜全摘出後の、治療方法は何が良いのでしょうか?
(答) 手術後の治療で、確実に再発を防ぐ治療方法は今の段階ではないのが現状です。病院ごとに、工夫した治療方法を、様々に実施しているのが現状です。術後の放射線治療は副作用が強く、患者さんが体力を落とす場合が多いので、注意が必要です。
(質問) 胸膜中皮腫の手術後の痛みについて
(答) 術後の痛みは、個人でかなり差があります。天気の変化や低気圧の通過した際に「鈍い」痛みを感じる点はほぼ全員共通ですが、その他の痛みは個人でかなり差があります。ほとんど気にならない程度の方から、激痛で麻酔科の痛みをとる「ペイン・クリニック」に毎週通う人もいます。手術時に肋間神経を切断したため後遺症で痛んでいる方も10%位はいますし、患者さんの「うつ」的な気持ちが痛みを更に悪化させている場合も案外あります。痛みのひどい方の場合は、痛み止めの内服薬や気持ちを変える薬を併用したり、痛みがひどければ麻酔科のペイン・クリニック受診をお薦めします。
(質問) 他にも様々な療法があるようですが、活用した方が良いでしょうか?
(答) 良いかどうかの考えは、医師によりかなり異なるでしょうね。抗ガン剤の治療に懸命な腫瘍内科医や呼吸器内科医は、「民間療法は効果がない」という場合が多いと思います。効果が広く確認された民間療法は殆どないので、この意見は最もでもあります。明確な効果のある治療方法なら、医療界で広く使用されるでしょうから。
しかし手術適応がないとされ、抗ガン剤も今ひとつ効果がなく放射線治療も効果が少ないと言われ、何かの治療を試みるのも当然です。実際に中皮腫の患者さんの多くが、様々な他の療法を活用しています。温熱療法の併用や免疫療法を併用する方も多く見られます。免疫療法では、丸山ワクチンの使用、リンパ球療法等を行われている方、食養生を行われている方、漢方薬の使用等がよく見られます。温泉に行く方も多いようです。
副作用が少ない治療も多いので、こうした療法の併用が実際に多いと思います。但し時々、藁をもすがる患者さんの弱みにつきこむかのように、高額の治療を行う医療機関もあるようです。月額50万円を超す様な治療方法は、少し冷静に判断される事も必要でしょう。
(質問) ターミナルケアについての情報が知りたいのですが?
(答) ターミナルケアといってもその時期に応じて、また、それぞれの地域の状況に応じて情報が、いろいろです。ターミナル=終着駅=人生の終着駅に至るケアを、どこでどのように受けるか、受けたいかということを、まず自分なりに考えるところから始まるのではないでしょうか。今の日本では、癌で亡くなる人の97%が病院内です。中皮腫も悪性腫瘍の一つですが、病院で亡くなる人の数がもっと多い疾病ではないでしょうか。
ホスピスも終末期医療の場所の一つです。全国に200箇所近くあります。病院の中に緩和ケア病棟(PCU)やビハーラ病棟(仏教ホスピス)として位置づけられているところもあります。病棟はなくても、病院の中に緩和ケアチームが組織され、各病棟を回って、緩和ケア(腫瘍による様々な不快な症状を薬の調節や心のケアで緩和することをめざす専門的なケア)をしているところも増えてきました。こういった情報はインターネットでも調べることが出来ます。
在宅でターミナルの時期を過ごしたいという人のために、在宅ホスピスに積極的に取り組んでいる診療所や訪問看護ステーションも全国各地にあります。そのような医療機関では積極的に疼痛コントロールのための様々な工夫や、具体的な日常のケアを、一人ひとりの状況に合わせて実施し、ご家族に対しても相談にのりながら、最期まで家で過ごしたい方のためにケアを提供しています。在宅ホスピス協会のホームページhttp://www005.upp.so-net.ne.jp/zaitaku-hospice/からも情報が得られます。
在宅でもない、施設ホスピスでもないケアハウスでのターミナルケアの試みも始められています。自宅や自宅に近い環境で、十分な緩和ケアを受け、できるだけ家族や親しい友人と有意義な時間が持てる様に、医療のみならず看護・介護サービスをチームで提供され、残される家族の悲嘆に対しても引き続いてケアを行なうのが在宅ホスピスです。多くの方が、病院の中で亡くなっている現実を踏まえると、病院の中でもこういったターミナルケアが行なわれなければならないと思います。緩和ケアを、どの場所でも受けられるように、すべての医療者の理解が深められるように、患者や家族の皆さんも積極的に医療者に発信していって欲しいと思います。
